NEC、楽天が先週後半に相次いで公募増資によるエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)を発表した。両社がなぜ、この時期に大規模な資金調達に踏み切ったのかその裏事情を探った。
IT関連に限らず、どの企業も新たな資金を取り入れたいのは当然の話。しかし、とくに金利負担を伴わない資本市場からのエクイティファイナンスでの資金調達が可能になるには厳しい条件をクリアしなければならない。まず、当然のことながら公募増資の場合には、発行する新株を購入してくれる需要が想定できなければならない。さらに、新株の発行によって、発行済み株式総数が大幅に増加することから、1株当たりの利益水準は低下し、既存の株式の価値は希薄化することになる。
したがって、その企業の今後の業績見通しが順調な推移と見込めることが第1の条件となる。さらに、1株当たりの利益がある程度低下しても耐えられる株価水準にあること(最近の株価が上昇基調を維持するなど)も条件といえる。それでは、NEC、楽天について個別に公募増資の状況を見てみよう。
NECは21日、2億5000万株の公募増資を行うと発表した。国内で1億5400万株、海外で9600万株をメドに募集、発行価格は12月8日から10日までのいずれかの日に決定し、払い込み期日は12月16日から18日までのいずれかの日となっている。さらに投資家の需要が強かった場合は、このほかにオーバーアロットメントにより2300万株を売り出す。今回の公募増資は最大で、同社の発行済み株式総数の16.5%にあたる2076億円を調達し、設備投資に400億円、投融資に900億円、残りを有利子負債の返済に充てることになる。
このオーバーアロットメントという公募増資の方式は、増資などが行われた時、一時的な需給の悪化によって株価が急落するのを防ぐためのものだ。増資が行われると、その企業の発行済み株式数が増えるため、株式市場における需給バランスが一時的に悪化する。当然、株価は下落するリスクにさらされるが、増資を行うたびに株価が大きく上下することは、株価の安定という意味では望ましくない。そこで、株式の発行を引き受けた主幹事証券会社はあらかじめ発行予定を上回る株式数を販売し、募集後の株価の状況をにらみながら、仮に株価が発行価格を下回っている時には株式市場からその企業の株式を買い付け、逆に株価が発行価格を上回っている時にはさらに多くの株式を企業に発行してもらうことによって、より多くの資金調達を可能にしている。
株式市場を企業活力の向上に役立てるために、企業が株式市場における資金調達を機動的・弾力的に行える環境作りが必要とされるが、とくに新株の発行に当たって発行企業からは、株価が日々変動する中で迅速かつ弾力的に発行手続を進めたいとの要請があった。こうした中で、日本でもこの新制度が導入された。
一方楽天は20日、宿泊予約サイト「旅の窓口」や、オンライン証券大手のDLJディレクトSFG証券など相次ぐ買収による資金需要で劣化している財務体質を改善する目的で10万株(手取り概算約498億円)の公募増資を実施することと、三木谷社長とその親族が保有する株式2万5000 株を売り出すことを発表した。
増資払い込みは12月9〜11日のいずれかを予定し、実質331億円のDLJの買収や「旅の窓口」の買収に伴って買い入れた175億円の返済などに充当する。これにより今期決算期末での債務超過は回避できる見通しという。
ただ、公募増資発表翌日21日の楽天の株価は、一時前日比4万1000円安(9.83%)の37万6000円まで下落した。公募増資の発行価格は12月1〜3日までのいずれのかの日に決定するが、この期間の株価が低迷するようだと、資金調達額が当初の目論見に比較して大幅に減額されることにもなりかねない。
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