日本電気(NEC)と理化学研究所は、固体素子を用いた量子ビット論理演算回路を世界で初めて実現したと発表した。量子コンピュータの実現に向けて大きな一歩となる。
共同研究チーム(巨視的量子コヒーレンス研究チーム:リーダー蔡兆申氏)は、2個結合した量子ビットをおのおの自在に制御できる素子構造と、これを用いて論理演算を行うために必要となる特有のパルス信号列を新たに考案。制御付き否定ゲート(CNOT)と呼ばれる2ビットの論理演算を実現し、期待通りに動作することを実証した。
NECでは1999年に、超伝導体を用いて固体量子ビット1個の回路動作に世界で初めて成功している。また、2003年2月には量子ビットを2個結合させた素子を用いて、量子コンピュータの実現に不可欠な量子絡み合い状態の生成に成功していた。量子コンピュータの世界では、量子ビット1個の状態を制御する回路と、2個の量子ビット間で論理演算を行う回路の組み合わせにより、任意の量子演算が実現できることが理論的に証明されている。今回の制御付き否定ゲート回路の成功で、量子コンピュータを構成する基本回路が完成されたことになる。
巨視的量子コヒーレンス研究チームでリーダーを務めるNECの蔡兆申氏 | |
---|---|
今回用いられた素子は、量子ビットを構成する2つの超伝導電子対箱が微小な結合キャパシタにより結合されたもの。それぞれの箱には状態制御用の直流電極およびパルス電極が取り付けられている。また、各量子ビットにはトンネル電流によってその状態を読み出すためのプローブ電極も備えられている。素子全体の大きさは約1ミクロン強、量子ビットを構成する箱の大きさは0.9ミクロン×0.05ミクロン程度。素子は全てアルミ薄膜で構成されている。
現行のコンピュータでは、ムーアの法則にしたがって集積度(ビット数)が大きくなれば、情報処理能力(実行ビット数)も同様に大きくなる。ところが、量子コンピュータでは、ビット数Nが増えることで、2のN乗という指数関数的に実行ビット数が大きくなり、現在のコンピュータをはるかに凌ぐ計算能力を持つと期待されている。例えば、現在のコンピュータでは数千年かかると言われているような数百桁の数字の素因数分解を数十秒で解くことができるという。またNP問題を含む一般問題の部分高速化にも貢献し、N回の計算回数をルートN回に最適化することが可能だ。さらに、時刻の高精度校正を行うことでGPSの精度向上なども期待される。
NECの執行役員である渡辺久恒氏は、「量子アルゴリズムなどの課題は山積しているが、具体的な回路の誕生という偉大な第一歩を踏み出した。世界最高速のコンピュータを作り出すことは、NECのビジネスとしても大いに有益だ」とコメント。また、理化学研究所フロンティア研究システム長の丸山瑛一氏は、「常々、産官学の一体化したプロジェクトを進めたいと思っていた。今回の成功は、産官学から有能なメンバーが集まって研究すると、こんなにも素晴らしい成果を出すことができるという例証になる」と語った。今後は、量子アルゴリズムの実証と量子ビットの更なる集積化を目指すとしている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」