めまぐるしく進化する技術に対応していくために、メディアや娯楽産業はどのような自己変革を行うべきなのか。ハーバード大学バークマンセンターと調査会社のGartnerは、法律、メディア、テクノロジーの専門家を招いてその答えを探るべく、カンファレンスを開催した。
マサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード大学ロースクールで9月18日に開催されたそのカンファレンスのパネリストらによれば、デジタルメディアの登場で娯楽産業はビジネスモデルの再考を迫られることになるという。また、アーティストがオンラインで配信された作品からも確実に報酬を得られるように、新しい税金が課されることになるかもしれない。
このカンファレンスでは、コンテンツの作者や発行者の著作権を保護した上で、ユーザーがデジタル機器を使って手軽にメディアにアクセスするためのシナリオが次々と提案された。議論は賛否両論を巻き起こしているオンラインでの音楽ファイル交換をはじめ、あらゆる電子メディアに及んだ。
娯楽産業はインターネット時代に即したビジネスモデルを構築できていない---この点で参加者の意見はほぼ一致した。業界がぐずぐずしている間に、KazaaやMorpheusといったファイル交換ネットワークでは違法なコンテンツ配信が堂々と行われるようになっている。
「この状況に法規制やビジネスモデルがついてきていない。それが今の大問題だ」とGartnerのメディアアナリストJames Brancheauはいう。
今回のカンファレンスと時を同じくして、大手レコード会社は違法コピーの流通を食い止めるため、ファイル交換利用者を相手取って大量の訴訟を起こしている。もっとも、これは業界が計画している訴訟の第一弾にすぎない。音楽メディアの売り上げが世界的に低迷するなか、Napsterの登場を境に、違法コピーはかつてない規模で流通するようになっている。訴訟はこの状況を打破するための「最後の手段」だと業界関係者はいう。
今回の訴訟がはっきりと示している通り、現在の音楽業界は危機的状況にある。カンファレンスでは、この危機的状況が新たな解決方法を生み出すのではないかとの意見が聞かれた。
強制ライセンスの導入
そうした大胆なアイディアのひとつが強制ライセンスの導入である。これは楽曲や映画がダウンロードされた回数に応じてコンテンツ作者に報酬を支払うというもので、政策立案者の間では盛んに議論されてきたものの、有力なレコード会社や映画スタジオの激しい反発を受けてきた。財源はダウンロード料金や回線利用料、デジタル機器の売り上げに対する税金でまかなうことが検討されているが、推進派によれば、必ずしも強制のシステムである必要はないという。
強制ライセンスが導入されれば、回線利用料やデジタル機器の価格は多少値上がりするかもしれない。それでも消費者は、電子メディアのコピーを好きなだけ作成する権利が与えられるのだ。しかし、バークマンセンターの報告書によれば、著作権法に強制ライセンスの仕組みが盛り込まれた場合、レコード会社や音楽スタジオといったコンテンツ所有者の収入は一時的に激減する可能性が高いという。
それでも消費者が音楽を聴く形態が激変している以上、レコード産業は強制ライセンスの導入を検討せざるをえないと非営利教育団体Future of Music Coalitionの相談役Walter McDonoughは指摘する。全米レコード協会(RIAA)の調べによると、米国内の音楽セールスは1999年から2002年にかけて14%も落ち込んだ。RIAAは違法ダウンロードをやり玉に挙げているが、景気の低迷やDVD、ビデオゲームといった音楽以外の娯楽手段の台頭を指摘する声もある。
「レコード会社はディスクを作る会社から、一種のライセンス企業に変化しつつある。これは持続可能なビジネスモデルといえるだろう。(しかし、税金の)率は慎重に設定しなければならない」とMcDonoughはいう。
強制ライセンス反対派は、デジタル娯楽に適性価格を定めるのは至難の業であり、規制機関の介入は市場の効率を損なうものだと主張している。実際、全世界のアーティストや制作会社を満足させるようなシステムや価格を割りだすのは並大抵のことではない。
著作権管理をどうするべきか
テクノロジーも娯楽産業に変化をもたらすことになるだろう。台風の目はデジタル著作権管理(DRM)だ。
DRMを利用することで、コンテンツ発行者は楽曲やビデオファイルの使用方法を制御できるようになる。たとえば、Appleの音楽ダウンロードサービスiTunesは、ダウンロードされる楽曲の複製回数に制限を設けている。
また、IBMは個人ユーザーがコンテンツを複数の家庭内ネットワーク機器で再生することを可能にするextensible Content Protection(xCP)構想を推進している。来月にはxCPの最初の導入企業が発表される予定だ。Microsoftも数年前から巨額を投じてWindows Media DRMテクノロジーの開発を進めており、これに準拠した機器やサービスの拡大に取り組んでいる。
しかし、DRMも完璧なソリューションではないとカンファレンス参加者はいう。暗号化の仕組みは、コンテンツをタダで入手しようとするユーザーに解読される可能性が高い。また、Electronic Freedom Foundationから同カンファレンスに参加した代表者らによれば、DRM技術を濫用し、個人のプライバシーを侵害するのはたやすいという。
ミュージシャンでElectronic Freedom Foundationの共同設立者でもあるJohn Perry Barlowは、「デジタル著作権の管理と、政治的権利の管理は紙一重だ」と警鐘を鳴らす。「現在導入が進んでいるシステムは、レコード会社がユーザーのハードディスクを調べ回ることができるというものだが、このシステムを使って政府が別の目的で個人のハードディスクを探ることも可能となるだろう」
これに対してMicrosoftは、DRMはコンテンツ作者に消費者のハードディスクをかぎまわる権利を与えるものではなく、電子配信されたコンテンツの利用にルールを定め、ユーザーが安全にコンテンツを楽しめるようにするものだと主張している。
法制化は実現するか
カンファレンスではデジタルメディアの合法的な電子配信を促進するシナリオとして、現行法、特にデジタルミレニアム著作権法の徹底も提案された。たとえば、最近ではRIAAがPtoPネットワークで違法な音楽配信を行った個人に対して261件の訴訟を起こしている。
RIAAの代表Cary Shermanは、CNET News.comの取材に対し、今回の訴訟の目的はオンラインで楽曲を交換することの違法性をユーザーに認知してもらうことであり、蔓延しているファイル交換の文化を変えることだと述べている。
レコード業界は法的手段に訴えるだけでなく、デジタル配信のモデルにも目を向けている。AppleのiTunesに続いて、来年にはRhapsodyがiTunesのような曲別課金システムを採用した音楽ダウンロードサービスを開始する予定だ。GartnerのBrancheauによれば、電子機器/メディア大手のSonyもオンライン音楽サービスへの参入を計画しているという。
Brancheauはさらに、娯楽産業がミュージシャンの発掘、レコーディング、宣伝といった従来の役割を維持するためには、デジタルメディアを収益構造に組み込む必要があると述べている。また、インターネットでは配信コストがほとんどかからないため、予算の少ないアーティストでも楽曲を観客に届けることができると指摘する参加者もいる。
規制、ビジネスモデル、消費者行動、テクノロジーなど、多くの面で問題が残されている。娯楽の選択肢を広げ、メディア産業を活性化するという目標が達成されるのはまだ数年先になりそうだ。
今は模索の時代だとBrancheauはいう。「いずれ(カンファレンスで提案されたモデルの)何らかの混合物が出てくるだろう。今の段階では、その配合は誰にも分からない」
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