イー・アクセスが来週末の10月3日に東証マザーズに新規上場する。同社はADSL事業者としてNTT東西、ソフトバンクグループに次ぐ業界第3位の接続サービスの大手だ。当初は昨年12月の上場を予定していたが、株式市況の悪化を理由に上場を延期した経緯がある。同社の読み通り、市場環境はその後大幅に改善して今回の上場となったわけだ。上場を目前に控えて同社の前人気は高まるばかりだが、その背景には何があるのか。
イー・アクセスの今年6月末現在での累計加入者数は110万人で、市場シェアは約13%。現時点で黒字化している唯一のブロードバンド通信インフラ事業者であるのが大きな特徴だ。同社は、第二電電(現KDDI)元副社長の千本倖生氏が1999年に設立し、ニフティや日本テレコムのODNなど、大手プロバイダ(ISP)を中心に26社へADSL回線を卸売販売している。2000年にサービスを開始して以来、他社と同様サービスメニューを拡大し続けており、現在は通信速度1Mbps、1.5Mbps、8Mbps、12Mbps、24Mbpsのサービスを提供している。
販売チャンネルはISPと家電量販店経由が主力。競合大手のような街頭での人海戦術によるキャンペーンは実施していない。したがって、社員1人当たりの加入者獲得コストの低さと業界最低水準の解約率(1〜2%)が大きな強みだ。さらに、NTT東西のダークファイバーを借り受けた自社専用バックボーン(中継網)回線の整備が進み(全国カバー率70%)、加入者増に対してコストを一定水準に抑えることが可能となりつつある。
同社は前3月期に営業キャッシュフローが黒字化し、今3月期の第1四半期(4〜6月)には初の経常利益1億4300万円を計上した。そして、今3月期通期には4億円の税引き利益の確保を目指している。
一度は昨年12月の上場を目指していたものの、株式相場の市況悪化を理由に上場を延期。結果的には、相場環境は大きく改善しIPO人気も様変わりの好転をみせている。さらに、同社自体の業績も黒字転換を確実にし、順風満帆の状態となってきた。こうした状況を受けて上場前の人気は加速するばかりだ。その証拠にブックビルディング(あらかじめ証券会社が投資家に購入希望価格のヒアリングを行い、そのヒアリング結果を参考に公募などの価格を決める)のための仮条件は15〜18万円と、事前の想定仮条件の12〜15万円から引き上げられている。そして25日引け後に、公募・売り出し価格は、仮条件の上限の18万円と決まった。ちなみに、公募による概算約72億円は、今年の新興3市場で最大規模となる見通しだ。
市場関係者は「上場後の株価を想定するうえで、本来類似会社として比較対象となるのはソフトバンクグループだ。しかし、両社の事業内容は類似しているものの、シェア拡大路線を突き進むソフトバンクと、卸売専業で収益重視のイー・アクセスとでは単純な比較はできない。むしろ、有線放送最大手で、光ファイバーを用いたブロードバンド事業も展開する有線ブロードネットワークスを参考にした方がよさそうだ」としている。
その類似会社の有線ブロードネットワークスについて19日、ING証券がレポートを作成し、投資判断を新規の「買い」として推奨、目標株価を12万円としたことが好感され株価がストップ高となるなど急伸をみせている。ING証券のレポートでは、「同社は光ファイバーを用いたブロードバンドの最強ニッチプレイヤー。連結キャッシュフローの足を引っ張っていたブロードバンド事業で、累積加入者増が加速し始めており、今8月期以降急速に利益拡大が進む公算が大きい」としている。
こうした相場環境の大きな改善や業績の順調な成長ぶり、さらに類似会社の株価の上昇など追い風が加速しており、上場初値はかなり高い水準となりそうだ。ただ、あまりにも初値が高水準に跳ね上がりすぎると、公募・売り出しの株数が4万6000株と大規模なだけに、利益確定のための売り圧力が強まることも考慮しておかなければならない。
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