PCメーカーの勝ち組、デル

 世界で最も影響力のあるPCメーカーはどれか。

 ソフトウェアやハードウェア設計に強いApple Computerだと言う人もいるだろう。また、PCを職場に導入し、ノートブック型パソコンの設計に関する多くの主要なアイデアを生み出したIBMの名を挙げる人もいるかもしれない。

 しかし私個人としては、Dellに一票を投じたい。

 もちろん、反対の声が挙がるのもわかる。Dellは特に新技術を生み出したわけではない。実際Dellは、過去約20年間に867件しか米国の特許を取得しておらず、この数字は他社が1年間に取得する特許数よりもずっと少ないものだ。(ただしDellには審査中の出願済み案件が562件ある。)テキサス州ラウンドロックに拠点を置くDellは、MicrosoftとIntelの方針にほとんど逆らわないことを指摘する人もいるだろう。またWebPCのような、創造的とされた同社のコンピュータも短命で目立たないものだった。

 それでも、Dellほどハードウェア業界の景観を変えた企業はほかにない。90年代の大半においてPC業界の最有力企業であったComaq Computerは、1998年にDigitalとのぶざまな合併に乗り出し、Dellの攻勢を避けようとした。しかしその結果、CompaqはHewlett-Packardに買収されてしまった。

 合併後のHPも有力候補に挙がるかのように見える。HPはマーケットシェア獲得のため、近頃大幅な値下げを決行した。しかしHPのPCグループは損失を出し、Dellによる急激なマーケットシェア獲得は続いた。

 別の見方をしてみよう。DellのPCはHPのものより高い。HPを代表するある人物によると、同仕様のマシンが250ドル高いこともあるという。それでも世界はDellに自然と引き寄せられた。

 Sun MicrosystemsもDellからの冷たい風を感じてきた。1997年以前、同社のワークステーションはUnix/RISCメーカーの主流だった。それが今では、Dellがワークステーション市場のトップだ。Sunの専門分野であるサーバ市場では、Dellは4位にとどまっているものの、速いスピードで成長しつつある。リサーチ会社のGartnerによると、Dellのサーバ事業の収益は、今年第1四半期に23%成長したという。その間、市場規模は1%縮小している。

 スーパーコンピュータは、歴史的に技術力の最も優れた企業のみが参画する分野とされてきた。しかし、クラスタリング技術が浸透し、Dellのような普通のサーバメーカーでも、大きな研究所や大学との契約をめぐる競争に参画出来るようになった。Dellが自社ではじき出した数字によると、今年の第1四半期に同社はどの企業よりも多くの高性能クラスタリング製品を販売した。

活動的で直接的なDell

 Dellの成功要因は、ダイレクト生産とダイレクトマーケティングにあると言えるだろう。同社は顧客への直販を行っているため、部品の価格が変動した場合、製品価格や仕様を日単位または時間単位で変更できる。これに比べ、HPは部品価格を予測し、この見積もり値をもとに製品販売価格を設定しなければならない。また一度設定した販売価格は、販売業者を満足させるため数週間は維持しなければならない。部品の価格が上がれば、HPは損をする。下がれば、DellはHPの価格を下回る値付けができる。

 しかし、直販のビジネスモデルだけでDellの成功の全てが説明できるわけではない。Gatewayも同じ手法を取っているが、2000年8月にPC市場の勢いが失速したころから、同社は厳しい状況に直面している。

 Dellの成功の本当の理由は、同社がある基本原理に則って行動していることにある。それは「馬鹿なことはするな」というものだ。採用し易いモットーのように聞こえるが、ビジネスの場でもプライベートの場でも、実際にそれを気にかけている人はほとんどいない。ワインのボトルをポケットナイフで開けようとしたことがないだろうか。誰だってそんな経験があるはずだ。

 Dellの歴史は、保守的な決断とその成功例に溢れている。例えば、買収は上手く行かない。だから、Dellは比較的小規模の買収を2回実行しただけで、うち成功しなかった1件については解消してしまった。また、提携は新しい市場への参入に役立つ。そこで、DellはEMCとストレージ事業に関する契約を、またLexmark International Groupとプリンター事業に関する契約を結んだ。

 Dellが守っている単純なルールがもう1つある。無料サービスほど人をわくわくさせるものはない、ということだ。そこで同社は頻繁に、一般消費者向けのPCに追加メモリや携帯用デバイスなどを無料でつけている。

 この手段は企業向けにも有効だ。Dellの元社員によると、同社はサーバ市場への参入を始めた頃、多数のPCを発注した企業にサーバを3台無料で提供し、顧客企業をびっくりさせたものだという。一度サーバを設置すれば、Dellの営業担当者は企業のサーバルームに入室することができる。そしてその顧客企業がどこのサーバを使っているかを知り、ライバル社より価格を下げて対抗できる。

 私が思うに、このような常識的な取り組みは、同社トップのMichael Dellが始めたものだ。ハイテク業界のほかの多数のCEOとは違い、Dellはテクノロジーの壮大な未来像や、個人的な運命観から活力を得ることはないようだ。むしろ、Dellは不思議なくらい平静な人物で、未来についての大胆予測や、他社に対する攻撃的非難をほとんどしない。

 Dellのインタビューを聞いたり、公の場での姿を見ると、人はみな同じよう印象を受ける。もし明日、レーザー装備した宇宙人が地球に上陸したとしたら、Dellを交渉部隊の選抜候補者名簿に加えたいと思うはずだ。

 最終的に企業であるDellは、未だ知られていない、動きの速いライバル会社によって、同社の形ある保守的な取り組みをひっくり返されてしまうもしれない。また、ぎりぎりの収益率と急成長が問題を生むこともあるかもしれない。長い間Dellの強みであったはずのカスタマーサポートに関する苦情も、同社の事業拡大が進むに従い増加している。しかし今のところ、Dellの影響力は広がり続けるだろう。

筆者略歴
Michael Kanellos
CNET編集局員。注目される新ビジネスの動向を本コラムで定期的に執筆。ホットな技術を持った活きのいい会社に関する情報を随時募集中。現在、CNET News.comのエンタープライズやパーソナルテクノロジーでも健筆を振るう。

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