Bruce Sterlingは自分自身を作家、ジャーナリスト、そして編集者だと名乗っている---全て本当だ。だが、『The Hacker Crackdown』(邦題:『ハッカーを追え』)の作者であるSterlingは、同時に異端児でもあり、現代技術の文化面の批評におけるリーダーでもある。
Sterlingは自宅のあるテキサス州オースティンで、人気SF小説を執筆している。代表作に、『Islands in the Net』(邦題:『ネットの中の島々』)『Distraction』『Heavy Weather』、William Gibson氏との共同執筆『The Difference Engine』(邦題:『ディファレンス・エンジン』)などがある。技術業界では、カンファレンスでのふざけたスピーチが知られており、マーク・トウェイン流の的確、かつユーモアに富んだスピーチで、数々の政治家や企業の有名人を斬っている。
最も古く、最も成功しているといわれるインターネット上のオンラインコミュニティ、The WELLの古くからの「住民」であるSterlingは、つい最近、ノンフィクションの世界に帰ってきた(『The Hacker Crackdown』は、アンダーグラウンドで活躍するハッカーと捜査官の戦いを描いた話で、これは実際にあった話だ)。
Sterlingの最新の著作『Tomorrow Now: Envisioning the Next Fifty Years』(2002年12月、Random House刊)は、さまざまな形式の未来主義を調査したものだ。先日、SterlingはCNET News.comのインタビューに応じ、未来への見解を語ってくれた。
---国防総省が"Total Information Awareness(TIA)"と呼ばれるデータマイニング・システムを計画していることがうわさになっています。これから数年後、何が起きるのでしょう。
Poindexter(訳注:IAO(情報認知局)のディレクター)のばかげた計画が、現実の世界を牽引していくとは思えません。良い質問とは言えませんね。基本的に、監視とメディアとの間にはっきりとした違いがあるとは思えません。良いメディアとは良い監視のことです。ビデオカメラはあちこちにあります。防犯対策用のカメラは、設置されている膨大な台数のカメラのほんの一部にすぎません。今後このトレンドは拡大し、社会的、政治的、経済的影響がさらに大きくなるでしょう。
近頃、初デートの前に"Googling"するという人が増えています。これは、現在のトレンドをよく表しています。PoindexterはGooglingをしようとしており、DARPA(米国防総省国防高等研究事業局)が、サイバー戦争がどこかで起こると真剣に考えている人がいると宣伝するためにこれを許可したのです。Googlingは世界的なものです。自分たちのPROFS(Professional Office System)システムで、電子メールを削除できない偏屈な共和党議員だけに限ったものではありません。今後、さらに様々な影響が出てくることでしょう。原因が本人にない悲劇を免れることは難しいものです。
例えば自宅が火事になり、夫を亡くしたとします。以前だったら、幌馬車で遠くオレゴン州に行けば再スタートすることができました。今なら、オレゴンに着いた途端、誰かがあなたをGoogleで検索し、「未亡人のシンプソンさん、今回の火事を深くお見舞いいたします」と言われることでしょう。
このような情報の連鎖を断つことはできず、やり直しを図ることもできません。ちょっとした情報が数千、数百万と重なることで生まれた自分のデータの影が常につきまとうことでしょう。
---偽名を使うのはいかがですか。
それはばかげた手です。私自身もたまたま偽名を使っていますが。私には、2つのデータ・アイデンティティがあります。1つは"Bruce Sterling"という公式の名前で、これを使って小説を書いています。そして、その他にも名前を持っています。こちらは法的な名前で、財産や選挙はこの名義です。
---もう1つの名前は何ですか。
Googleで調べれば10秒で分かりますよ。
---でも、David Brinの言う「透過的な社会(transparent society)」を懸念しているわけではないのですよね?
Davidは、これがすばらしいと思っているのです。Davidは技術における決定論者です。彼は、人々がトレンドを理解し、その上に乗らねばならないと考えています。私はこのような幻想を抱いていません。現代が宇宙の時代だからといって、我々全員が宇宙に行くとは限りません。原子の時代だからといって、全員が自家用原子力ヘリコプターを持つわけでもありません。情報の時代だからといって、全員が恩恵を受けたり、幸福になるとも限らないのです。今はまだ予言できないような第2、第3の影響が出て来ることでしょう。留守番電話からモニカ・ルインスキーのスキャンダルを想像することはできなかったはずです。あの場合、どちらかが欠けても起こり得なかった事件ですが。
---TIAなどのデータマイニング・システムがきちんと機能した場合、それがもたらす第2、第3の影響はどんなものになるのでしょう。
TIAが有効なものだったと仮定して、何が起こるか教えてあげましょう。すぐに共和党内でクーデターが起きます。ロシアでKGB(旧ソ連国家保安委員会)サバイバルメカニズムに関連していた人が組織的に露呈して、"トレント・ロットされた"ように(訳注:トレント・ロット議員は2002年、ストローム・サーモンド議員の100歳の誕生日パーティーで人種差別的発言を行い、後に議員辞任に追い込まれた)、組織が根底から揺らぐことになるでしょう。党員達の情事も公になります。"ルインスキーされる"人、"ホワイトウォーターされる"人が次々と出てくることでしょう。
政治家のこのような状況を目の当たりにして、多くの一般市民は愕然とすることでしょう。一度監視メカニズムが動き出せば、これを止めることはできません。このメカニズムはKGBのメンバーを数世代にわたって蝕み、全市民を追放するか、ロボトミーを施すまで止まりません。
あの時、トレント・ロットに何が起こったかを知っている共和党議員はたくさんいます。知らないわけはないでしょう。彼らは生きる知恵を身につけています。ある人の100歳を祝う、事実上は葬式の席で、偶然誰かが記録をしたために彼が捕まったのだと知っています。
---こういったことを楽しんでいるようですね。
これは、民主主義への脅威です。『Tomorrow Now』の中の、政治的なことに触れている章で、メディアの毒性について書いています。潔白な人などだれもいないという反対の調査結果が生まれるのです。
---解決策はあるのでしょうか。
なぜ解決策があると思うのですか。
---では、これまで我々がプライバシーの実質的範囲と思ってきたものを維持できる望みはあるのでしょうか。
その質問の表現は認められませんね。プライバシーがどんな状況にありますか。自宅でのプライバシーがどんな状況にあるのですか。皆が無教養になれば、プライバシーは増えます。でも、これは本当のプライバシーとはいえません。正確には無知です。無知のレベルが下がり、データを蓄積する能力と、それを様々な目的に向けて利用する能力が向上しているのです。
---もしブッシュ政権が議会の反対を抑え、深いレベルでのデータマイニング・システムが稼動しはじめたら?
情報に飢え狂ったKGBか、比較的オープンで上品な政府か。自分の足で選挙に行くことです。変人たちから逃れることです。一体、誰がTIAのあるようなアメリカという国に住みたいと思うでしょう。この国に投資したいと思うでしょうか。ドル通貨は暴落するでしょう。そしてエリート政治家たちは互いに滅ぼし合うでしょう。
---著作『Distraction』では、悪意を持ってプログラムされたスパムが情緒不安定な人々を動かして、犯罪を行うように仕向けました。これは予言といってよいでしょうか。
あの本はただのSF小説で、単にクールな考えを書いただけです。ああいうことを想像するのはおもしろいでしょう。これが実際に起きたとは聞いたことがありません。実際、かなり動揺の広がるものでしたが。でも娯楽小説では、登場人物の行いはすべて人を動揺させます。私のSFヒーローは、精巧に正当化された計画を常に創り出しています。彼は妄想的です。自分の目的を失いかけたら、さらに努力するのです。
---それでも、問題を解決することは決してありませんね。
政治的な人は、実際に問題を解決することはありません。ポップミュージックの人々と同じです。"政治的解決策がある"ということは、ミュージシャンが"ヒットチャートのトップに永遠にとどまるポップソングを作れる"というようなものです。これに関しては、私は思い違いをしていません。でも、これにシニカルになっているわけでもないのです。
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