ローレンス・レッシグ、ネット時代の新たな著作権法を求める戦いへ

 著作権期間延長法の違憲性を問う有名なEldred裁判で、最高裁での敗訴が確定してから5カ月が経った。今や、連邦著作権法に反対する人々は、インターネット時代にふさわしい法律の制定を求める一般向けキャンペーンを展開している。この運動を率いているのは、Lawrence Lessigだ。

 Lessigはスタンフォード大学の法学教授で、インターネット上でのプライバシーと知的所有権の擁護者として名高く、Microsoftの反トラスト法訴訟では裁判所から「スペシャルマスター」に任命されたこともある。そんな彼が6月2日、米国政府の著作権更新方法を改める長い戦いの、最初の一撃となるという、オンライン署名運動を開始した。

 署名運動の目標は、著作権保有者が著作権の保護期間を延長するには、50年ごとに1ドルを支払わねばならない、となるよう連邦議会の方針を改めさせることだ。

 Lessigによると、現状では、著作権は所有者が生存しているかどうか、自分の作品を著作権で保護したいかどうかに関係なく、自動的に延長されるという。その結果、インターネット上のアーカイブには、膨大な情報――たとえば、自動的に延長されてしまった著作権が切れる前に管理者が破棄してしまいそうな映画など――を保存することがを禁じられてしまっている。

 Lessigが署名運動を始めたきっかけは、最高裁がこの1月に、著作権保護期間を自動的に20年延長するという連邦議会の方針を支持する判決を下したことだった。

 Lessigと、彼が代表した11人の原告、そして仲間のパブリックドメイン(社会全体の共有財産)提唱者らは、この最高裁判決が出されたことで、訴訟という手段に訴えることができなくなった。そこで彼らは、法律の是正に乗り出した。現在、活動家たちは証拠集めや、署名運動による一般からの支持集めを行い、議員らと話し合い、1ドルの更新料という彼らの提案に早くから反対するハリウッド産業界をうまくかわそうとしている。

 CNET News.comは、サンフランシスコにあるLessigの自宅で、今回のキャンペーンについてインタビューを行った。

--- 署名運動はいつから始まったのですか。

 今朝(2日)です。非常にエキサイティングですよ--「こんなことを始めるから、みんな協力してほしい」とブログに書いて、2、3のメーリングリストに投稿したら、昼までに2000の署名が集まりました。

--- 何がこの運動を始めるきっかけになったのでしょうか。

 我々は、Eldered裁判の判決に対する反応をまとめようと、何カ月も取り組んできました。我々は、米国が加盟調印している(文学的及び美術的著作物の保護に関する)ベルヌ条約に準拠するような、法案の言い回しを考え出しました。そして、連邦議会に対して、著作権問題のバランスを取り直す何らかの行動を求める、大規模な草の根団体を組織しようとしています。署名運動は、ワシントンに行って、「この問題をあなた方に検討して欲しい人々が多数いますよ」と言うための第一歩なのです。

--- 署名運動はどのくらいの期間実施するのですか。あるいは、いくつの署名が集まったら連邦議会に提出するつもりですか。

 まだ決めていません。こういうことをやるのは、今回が初めてでして。

--- あなたは、「著作権やプライバシーのことが心配するなら、Electronic Frontier Foundation(EFF)に寄付したほうがいいだろう」と公言していますね。

 はい。でも、私は政治的な運動を展開しようとしたのではありません。このアイデアが昨年世間に出回って分かったことは、これが、我々がほとんどの人間にとって明白な問題を扱った、はじめてのケースだということです。Napsterやファイル共有に関して、私は強い意見を持っていましたが、対立する側にも人を納得させるような強い意見がありました。それに比べると、今回の著作権延長に修正を加えるという提案には、対立するような見解の相違はありません。発表後50年が経過し、著作権保有者にとって1ドルの価値もなくなったような作品なので、どうしてその著作権が自動延長されるべきなのか?道理をわきまえた人間なら、そんなことを言いはしないでしょう。

 別の言い方をすると、もし著作権保有者が、そんな価値のない作品さえ渡すつもりはないというなら、いったいどちらがこの問題について極論をいっているのか、ということになります。パブリックドメインなぞ廃止すべきだと言うか、ミッキーマウスの著作権延長に1ドル払うのは、負担が大きすぎると言わなければならなくなります。どちらの主張も、米国の伝統からすれば極端なものでしょう。連邦議会は、著作権の利益を深刻に損なわない形で、パブリックドメインの利益となることをすべき時なのです。

--- EFFについてのあなたの主張といえば、当時、あなたは政治家は純粋な議論には関心がないので、政治家に直接話をするのは非生産的だからEFFのような団体に寄付したほうがよいと述べていました。その発言後、政治家と直接話をする機会はありましたか?なにか幸運な出来事がありましたか?

 ええ、もちろん。驚きっぱなしです。正しいことをしたがっている政治家が大勢います。だから、そのチャンスを彼らに与えることが大事なんです。

--- どの議員に宛てて、署名を提出するつもりですか。法案の発起人になりそうな議員はいますか

 我々は多数の連邦議員と話をしています。(米国映画協会が)かなり本格的な法案阻止キャンペーンを始めたので、特定の人の名前を挙げるのは差し控えます。

--- ちょっと待ってください。先ほどあなたは、道理をわきまえた人間で、このアイディアに反対する者はいないと言っていませんでしたか。

 我々の考えは実際道理をわきまえたものですが、しかし現実にはすでにたくさんの敵がいるのです。米国映画協会(MPAA)は、我々が話をしている議員に対して、何故これが悪いアイディアなのか、その理由を説明し始めています。

--- この問題がなぜインターネットに関係するのか、その理由を教えてください。とくにハイテク業界については、なぜ関心を寄せる必要があるのでしょうか。

 これは、みんなに理解してもらわなくてはならない、極めて重要な問題です。インターネットの普及以前には、著作権の有効期間が長くても、あまり問題になりませんでした。インターネットが普及する前なら、一度絶版になってしまった本をどうしていたでしょうか。それを復刊するにはどうしていたでしょうか?いまはインターネットがあるおかげで、膨大な量の知識や文化をインターネット上で利用できるようにして、学校や図書館や、他のクリエイターたちに無料で提供することも不可能ではないわけです。1976年に米国議会が、初めて著作権保護期間の延長申請制を廃止し、自動的に延長されるようにしたときには、このような可能性は存在しませんでした。延長申請制が廃止されたのは、連邦議会が申請作業を余計な負担だと考えたからで、当時はまだ、作品をパブリックドメインで提供することにそれほどのメリットはなかったのです。

 インターネットによって、パブリックドメインの価値は百万倍に増大しました。よって、許可を取る必要がないのならば、作品を復活させるチャンスが我々の手にあるのです。そして、我々は連邦議会に、インターネットがつくり出した可能性という観点から、自分たちがしてしまったこと、つまり著作権の自動延長の決定について考え直して欲しいのです。

--- 米国の著作権法が現在の形に進化するまでの経緯を、簡単に説明してくださいませんか。

 1976年までは、2通りの著作権保護期間がありました。最初の期間は28年間で、それを延長するとさらに28年間保護されるというものです。この制度の利点は、著作権の大多数--1973年で85%--が延長されなかったことです。連邦議会は1976年にこの法律を改正し、延長申請制を廃止して、著作権保護期間は作者の存命期間プラス50年、また企業や、企業の依頼によって作られた作品の場合には、一律75年というようになりました。連邦議会が1992年に、この法律が存在する全ての著作権に適用されるとしたため、誰も著作権保護期間を延長する必要がなくなりました。そして1998年、Sonny Bono法によって、保護期間が20年延長され、企業の作品については95年、個人の作品は作者の存命期間プラス70年となりました。

 したがって今後20年間、パブリックドメインに提供される著作権は全くないわけです。いっぽうでは、何百万もの特許がパブリックドメイン入りするというのにです。連邦議会は、あらゆるコンテンツのうち商用価値を持つわずか2%の作品のために、保護期間を延長しようとしていますが、商用価値のない大多数のコンテンツについては何も考えていないのです。

--- しかし対立陣営が、その2%という統計を覆す可能性はありませんか。残りの大多数のコンテンツにも、少なくとも商用価値がある可能性はある、と彼らが主張することはできないのですか。

 とても重要なのは、著作権が保護された作品がたどる運命を考えることです。作品には、2つの命があります。出版社が販売している間の命と、その後の絶版になったときのとなる命です。ちなみに、ほとんどの本が出版後3年以内に絶版になります。しかし、本の命はそれで終りではないのです。絶版になった本でも、図書館で、そしてアーカイブのなかで生き続けます。だから、私が2%に商用価値があるというのは、1923年から1942年の間に生まれた作品の2%が、本やビデオの販売によって、伝統的なやりかたで利用されているという意味なのです。

 残り98%のコンテンツがパブリックドメイン入りすれば、 Brewster Kahleの運営するInternet Archivesや、 Rick Prelingerがやっている映画アーカイブのような試みがもっと登場してくるでしょう。彼らは映画を集め、資料映像を販売しつつ、しかし大部分のコンテンツをインターネット上で無料提供しています。彼らのような人たちは、パブリックドメイン入りしたコンテンツを商用目的で使えるようになるでしょうが、そういったビジネスが成立するのは、作品を見つけ出し、その著作権をクリアするに、法外なお金を支払わなくていいからなのです。著作権という重荷を取り払えば、大量の作品が商用・非商用の両方の目的で利用されるようになるでしょう--そうした作品を、図書館にデジタル形式にして提供すれば、学校の図書館の運営コストを下げることができます。みんなが古い映画のライブラリをつくり、いまはまだ実現していないやり方で、そうしたコンテンツが手に入るようにするでしょう。

--- MPAAや昔からのメディア大企業は、このアイディアに反対していますが、AOL Time Warnerなど、インターネット寄りのメディア企業の反応はどうですか。

 AOLとは、まだあまり連絡を取っていません。我々はロビイスト団体ではないので、あまり多くの時間をかけて企業に直接連絡をとることはしていません。また、シリコンバレーの連中と話をした限りでは、みんなが概して著作権保護期間の延長に、とても懐疑的なようです。Intelは、Eldred裁判について、自社の考えをレポートにまとめて発表しています。ハイテク業界では、長期間にわたって著作権が保護されると、イノベーションや、業界の成長が起こりにくくなります。そして、みんなはそのことを理解しているのです。

--- これまでにどんな団体が賛同してくれていますか。

 パブリックドメインを回復しようという団体が、新たにたくさん誕生しています。Public KnowledgeやEFFもその一例です。我々は、約25の団体とこのプロジェクトの組織化について議論しており、またこの成功は私にとってかけがえのないものとなっています。今後はかなりの時間を、このプロジェクトに注ぎ込んでいくことになると思います。

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