9歳になるわが息子は運動神経がいい。彼は3年生4年生の頃にバスケットボールのチームでプレイしたりNBAの試合を見たりしつつ、どうやら自分もNBAに入る運命だと信じ込んでしまったようだ。
私も夢を持つことは大切だと励ましてはいるものの、そういう思いを持っている人はたくさんいるが、みんながプロになってMichael Jordanのようになれるわけじゃないんだよ、と現実的なアドバイスも与えている。
ITの世界にも似たようなことがある。実際に存在していることではなく、実際に存在していると思われていることを描写することがあるのだ。Wal-MartやCharles Schwab、Federal Expressなど、ITを駆使した企業の話をよく聞くが、これらの企業は最先端を走っている例外であって、ほとんどの企業ではこれら企業のIT関連部署がやっているようなことを実践してみようとは夢にも思っていない。各メディアを騒がせているこのような最先端企業はNBAのスーパースターと同じで、われわれのような凡人とは縁のない世界のことなのだ。
最近一般大企業で働く管理職レベルのIT運用マネージャー4人と会う機会があった。この私の友人らはみなそれぞれテクノロジーの最先端を走っているような企業に勤めており、IT機器やソフトウェア、ITサービスなどをふんだんに利用している。
しかし彼らはコンピュータ業界の社会通念と思われている部分から少しはなれた現実を映し出しているといえる。つまり、彼らはWindows対Linux戦争のことなんて全く気にかけていない。彼らの勤める企業では、IBMのiSeries (AS/400)上にUnixとWindowsサーバを混在させて使っている。それでめったに落ちることなく動き続けているからだ。マシンが2年間ダウンすることなく動いているという企業も私は知っている。AS/400は作業効率もよく、管理機能やUnix・Windows用ミドルウェアもついている。さらにAS/400はウェブ対応アプリケーションの構築が可能で、パートナー企業との作業を容易にすることができる。
ストレージ専門家によると、ストレージは全体の約30%しか活用されていないのだという。ベンダーはこの数字を元に一生懸命SAN(Storage Area Network)やSRM(Storage Resource Management)製品を売ろうとしているが、私の友人らはSRMなんて言葉は聞いたこともないという。ストレージの有効活用は、システム管理者に任せればいいということらしい。彼らにストレージの活用率が通常約30%程度だと話すと、信じられないといった表情を見せた。
彼らはどうやら平均的な数字は80%から90%程度だと思っていたようだ。その中の1人は「もし自分の会社のストレージが30%しか活用されていないのだとしたら、私のクビがとぶ」といった。また別の1人は「SANを使うなんて考えられない。あれは過剰評価されすぎているし、今は必要ない。必要になればちゃんと予算を取るよ」という。
さて、高可用性やディザスタリカバリはどうだろう。業界ではこれは絶対必要なものだといわれているが、実際にはそうでもない。目立ちはしないがほとんどの人たちは、技術・運用スキルを駆使し、クラスタリングソフトやハイエンドシステムを必要に応じて利用することで1日24時間動き続けるシステムを構築しているのだ。とはいえ、システムはクラッシュするものである。あるマネージャーによると、Oracleのパッチあてで1カ月もダウンタイムが続いたことがあったそうだ。
また別の人は、Microsoft Exchangeが悩みのタネだという。ディザスタリカバリについては、彼らはテープバックアップやオフサイトストレージでまかなっているそうだ。遠隔ミラーリングについて尋ねると、ある人は笑いながら「証券会社じゃないんだから。うちの会社は日用品を扱っているだけだし、システムがダウンすれば手動で作業を進めてシステムの回復を待つよ」といった。
業界の物知り博士はセキュリティ関連の投資が急激に伸びると言っているが、本当だろうか。私の友人らはセキュリティの複雑さと必死で戦っている。ビジネス部門にいる連中は、セキュリティのための予算を取ろうとしない。ビジネス部門では、セキュリティはIT予算に組み込まれるものだと考えているようだ。私はIT担当者がビジネス部門に対し「彼らはITが安全でないのはIT部門が怠けているからだと思っている。リスクも何もわかっておらず、予算を取ろうとしない」と愚痴を言っているのを何度も聞いた。恐ろしい話だが本当のことだ。
最後に、サプライチェーンの統合が話題になったのを覚えているだろうか。Dell ComputerやWal-Martといった大企業にはちょうどいいかもしれないが、中央アメリカなどでは役に立たないだろう。私の友人はi2などのSCMツールは複雑すぎるといっている。システムを統合しようと顧客を説得しようにも、注文はいまだファックスで入ってくるのだという。サプライチェーンの統合は結局顧客のITスキルによって顧客ごとに話を進めているそうだ。こんな調子で本当にメリットはあるのだろうか。
ここで言っておきたいのは、私の友人は別にド田舎の企業に勤めているわけではないということだ。みな業界リーダーとされるグローバル企業に勤めており、リスクを侵そうとも思っておらずコストに関しても敏感で、ビジネス部門との間に問題を抱えつつも立派にITサービスを提供しているのだ。
私の息子もバスケットで能力を発揮してほしいとは思うが、親バカの私もさすがに彼が未来のMichael Jordanになれるかどうかは疑問だと考えるのが妥当だろう。IT業界でも、そろそろ現実的な視点で物事を考え直してもいい時期ではないだろうか。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」