Apple Computerが新たに始めたミュージックストアのおかげで、オンラインで音楽を購入するのがずっと簡単になった。これは音楽ビジネスの今後の方向を示す有望な兆しといえよう。ただし、このサービスは、まだインターネットで実現できる音楽体験を提供し始めただけに過ぎず、半分くらいの出来という感じもする。
Appleは交渉の末、レコード会社から素晴らしいライセンスを獲得した。その点で、同社は天才的ともいえる。他の会社は、これまで同様の権利を求めて交渉し、失敗に終わっているわけで、Appleの最高経営責任者(CEO)Steve Jobsが多少自慢するのも当然のことだろう。しかしiTunes Music Storeは結局のところ、ただの音楽提供サービスにすぎず、みんながあれこれ音楽を試して、ある音楽のことを知り、最終的にそれを購入するまでのプロセスは、全くとは言わないまでも、ほとんど変わっていない。これは残念な点である。
正しい形でアプローチすれば、オンライン音楽には、今まで強引なマーケティングで消費者を獲得してきた音楽業界を、豊かに変貌させるパワーがあるはずだ。
現在音楽業界では、リリースされる全楽曲のわずか2%が、全売上の80%を占めている。オンライン配信には、このバランスを修正し、何百もの無名アーティストを出世させ、業界のスターを生み出すメカニズムに飽きて関心を失った多数の人々を、新たなファンにさせる可能性があるのだ。
そのために重要なのは、消費者により多くの、よりよい情報を提供することだ。未来の音楽ストアは、そのための主力手段となれるし、そうなるべきだ。
Amazon.comは、おすすめ商品やカスタマーレビューを導入して、書籍販売のかたちを徹底的に作り変えた。これを考えると、Appleやレコード会社が誰の目にも明らかな革新をやり残していることが分かるだろう。
偉大なオンライン音楽ストアにあるべき--そして、きっと間もなく実現する--機能を想像することは、それほど難しくはない。Appleがその機能を実現しないのなら、Amazonのような競合ストアやVirginなどの大手CD小売店が、ライセンスの問題さえクリアできれば、ほぼ間違いなく手をつけるだろう。このアイディアは非常に魅力的なので、シリコンバレーのベンチャーキャピタルがフル装備の新オンライン音楽販売サービス事業計画を募集しているとさえ噂されている。
音楽業界はマーケティングに関してはなかなかのやり手なので、オンライン音楽配信のアイディアが実際に軌道に乗りだせば、すごい勢いで参入して大騒ぎを始めるだろう。しかし今のところ彼らはまだ、実験すら始めていない。
レコード会社各社は海賊行為を恐れるあまり、長い間オンライン配信への足並みを揃えてきた。彼らは、違法コピーを防止すべく複雑なデジタル著作権管理(DRM)機能を要求したはいいが、一方で金を払ってくれる顧客に不便を強いて嫌気を起こさせてしまい、最大の販売チャンスをほとんど無駄にしてしまった。
Jobsが言うように、インターネットは音楽を販売するためのものだ。音楽業界幹部は、無料ファイル交換ネットワークを致命的脅威と捉えている。しかし実際は、DRMという消費者に不便な手段に訴えずに、本当の価値を提供できる製品やサービスがあれば、このようなネットワークは抑制されると考えるのが自然だろう。
Appleを公平に評価すれば、同社はみんなが実際に買う気になる--とくに、1曲99セントという価格がさらに値下げされれば--ような形でデジタル音楽を提供する権利を勝ち得た、ということになる。
しかし一方で、他のオンライン音楽サービスのなかには、音楽のパッケージのしかたや販売方法を改善しようと、もっと多くのことを試しているものもある--Jobsたちが無益だと蔑んでいるサービスもそうだ。
私が言っているのはiTunes Music Storeのマーケティング部門から不当な非難を浴びている、契約ベースのサービスのことだ。私自身、実際にほとんどの契約サービスを試してみた上で、1つお薦めしたいものがある。Listen.comのRhapsodyサービスがそれだ。これは、iTunes Storeが試そうともしないようなさまざまな方法で音楽を提供している、素敵なサービスだ。
Jobsによると、Rhapsodyのような契約サービスは、顧客を海賊ユーザーのように扱うから良くないのだという。音楽ファイルはパソコンでしか利用できないし、ファイルは所有できず、レンタルするしかない。こんなサ―ビスは許しがたいはず、と言うのがJobsの主張だ。
Rhapsodyは完全というには程遠い。ストリーミング配信システムを採用しているので、ブロードバンド接続でも時々音切れしてしまう。音楽カタログには抜けている部分がある。ユーザーのハードディスクのMP3ファイルと同期できない。それに月額約10ドルという価格は、大衆受けするにはおそらくまだ高すぎるだろう。
しかし欠点はともかくとして、Rhapsodyや他の一部の契約サービスでは、素晴らしいものがたくさん提供されている。Rhapsodyの音楽リストは膨大で、音楽の百科事典を開いているかのようだ。ほぼどんなアーティストの楽曲でも、すぐに試聴できる。それも、iTunesのような30秒間の試聴ではなく、1曲丸ごとが数週間に渡って利用可能だ。1ドル払えば、曲をCDに記録できるし、いったんCDに記録した曲をパソコンにコピーすれば、所有権の問題も解決される。
Rhapsodyは、オンライン音楽ストアが単なる音楽ダウンロード以外にもっといろいろと提供できるという事実、そして、実際そうすべきなのだということを強調している。
では、未来の理想的オンライン音楽ストアとは、どのようなものなのだろうか?
無制限のMP3ダウンロードと、信頼できるレビューやおすすめ音楽などアーティストや音楽についてのたくさんの情報、それから購入前に試聴するたくさんのチャンス、コンサートのスケジュールやチケット、歌詞や楽譜へのアクセスなどは、少なくとも提供されるべきだろう。
オンライン音楽ストアに、内容のある記事を組み合わせることは簡単だ。オリジナルのコンテンツを提供してハイブリッドなマガジン形式のサービスにもできるし、VerveやRolling Stoneなど既存の出版物とタイアップしてもいい。
それから、ある楽曲の制作に使用されたツールやテクニックに関して、短い記事を提供するのもよいだろう。アーティストは、その記事の中で、使用した機材のメーカーに有料広告リンクを販売することもできる。機材メーカーは広告リンクを掲載することで、自社製品についての有用で信頼できる情報をもとに、非常にターゲットの絞られた、反応の良いユーザーと接点を持つことができるわけだ。
オンライン音楽ストアは、どこまで革命的になれるだろうか。音楽のリアルタイム価格設定スキームというのも、最近議論されているアイディアの1つだ。これは、ニューシングルの価格は発売直後の数日間は3ドル以上に跳ね上がるが、いっぽうで人気のない曲はかなり値下げされるという具合に、音楽を人気に応じて価格設定しようというものだ。需要に応じた価格設定によって、見落とされそうな作品の売上が伸びるかもしれないし、少なくとも新しいものを試す敷居が低くなるだろう。それにトップセラーは、人気に応じた報酬が得られる仕組みになる。
このアイディアがうまく機能するかどうかは、私にはわからない。でもこのアイディアは、サービス革新の目標を高く掲げるものだと思う。これに比べると、Appleの音楽ストアはかなり控えめな感じがする。
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