「ビジネスインテリジェンスに対する関心は高まっているが、本当の意味で活用できている企業は少ない」-- 5月22日に東京で行われた「Gartner IT Summit ビジネス・インテリジェンス&エンタープライズ・ポータル 2003」で、米ガートナーのバイスプレジデント兼リサーチディレクターであるHoward J. Dresner氏がビジネスインテリジェンス(BI)市場の現状と課題、今後の展望について語った。
理想と現実:企業側の課題Dresner氏によれば、BIを導入する企業は増えているが、大部分が「さまざまな評価尺度を打ちたてデータを洗い出しているレベルにとどまっている」という。彼の主張ではBIは単に自社のビジネスの現状を洗い出すためのものではなく、そこから得られた洞察をビジネスプロセスや組織の変革に生かしてこそ意味があるという。
「BIを通じて組織を変革し、既存の収益基盤の強化や新たな収益源の確保につなげるのが理想だ」とDresner氏はいうが、そのためにはBIから得られた洞察を生かす権限と予算を与えられた部署がなくてはならない。しかし、実際にはIT部門にもBIを活用する事業部門にもそのような権限を与えられているケースは少なく「BIが技術のための技術」に陥る危険があるという。
「多くの企業ではBIの導入を各部門がばらばらにやっていて戦略やリーダーシップに欠けている。またデータを解釈する能力も、活用するスキルも無い」とDresner氏。「特に米国や日本ではIT導入に関して現場の権限が強く、ボトムアップ型でシステムが導入されることが多いが、これがトップダウン型のリーダシップを持った戦略的なBI導入の妨げになっているのではないか」との推測を示した。
理想と現実:ベンダーの課題一方で、Dresner氏はBIのシステムを提供するベンダー側の問題についても指摘。「CPM(Corporate Performance Management)やBAM(Business Activity Monitoring)、ワイヤレスBIなど、ベンダーは新しいキーワードを次々と打ち出して需要を喚起しようとしているが、こういったキーワードで顧客を振り回すのではなく、きちんとしたソリューションを提供することが重要だ」と誇大宣伝になりがちなベンダーの状況に苦言を呈した。
現場のコミットがなければBIは活用できないDresner氏によればBIを成功させる鍵はIT部門と事業部門のコミットと協調だという。米国や日本のような現場主導のBI導入でもある程度の成果は出せるが部門レベルの限定的なBIになってしまい理想的とは言えない。IT部門との協調で全社システムとの統合やデータの整備などを進めることが大切だという。逆に、エンドユーザーのコミットがまったくなければ、どんなにIT部門が積極的でもBIの導入は上手く行かない。「ユーザーが何を求めているかが分からず、ビジネスに役立つシステムが作れない」(Dresner氏)からだ。
BIプラットフォームは収斂の方向へガートナー データクエストの調査によれば、ソフトウェア市場が低迷するなかでBI分野は比較的堅調で拡大傾向を保っている。BIベンダーの動向に関しては、CognosやBusiness ObjectsのようなエンタープライズBIスイート製品とCrystal Decisionsのようなレポート作成機能に優れた製品が収斂する方向に進んでいる。「BIスイート製品が堅牢なレポーティング機能を提供するようになる一方で、レポーティング製品がBIスイートのようなインタラクティブな機能を提供するようになっている。今年の後半には両者を統合した製品が出るだろう」とDresner氏は予測する。
また、今後の成長分野としてユーザーがカスタマイズしてBIアプリケーションを作成できるBIプラットフォーム製品をとりあげ、「この分野は若い市場でまだリーダーがいない。Microsoftがリーダーに一番近いが、HyperionやMicrostrageyも強い。部門レベルでの導入が多いので、ブランドよりもスピードとコストが重視され、小さな革新的ベンダーにもリーダーになるチャンスがある」と述べた。
不況期の今のうちに準備を最後にDresner氏は現時点でBIに投資することについて次のように述べた。「BI投資にとって今が重要な時期だ。景気が低迷する中で大胆な投資を行うのは難しいが、今のうちにBI環境を整備しておけば、景気が上向いたときにデータを活用して戦略を立てビジネスを先に進める体制が作れる。またトップダウンで全社的にBIを導入するためには、BIの分析結果の活用と全社への導入サポートを行うBIコンピテンシーセンターのような部署を設置すべきだ」
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