今、オープンソース・ソフトウェアを考える

この記事は『RIETI』サイト内に掲載された「今、オープンソース・ソフトウェアを考える」を転載したものです。

 オープンソース・ソフトウェア(OSS)については、世界の大学・研究所・企業をはじめ、政府関係機関において、その開発・導入、安全性・価格評価を含めたプロプライタリ(商用)なソフトウェアとの比較等、活発な議論が交わされている。そこで、これらの議論を以下に整理する。

オープンソースとは

 オープンソースの背景には、ソフトウェアは、特定の会社の持ち物にするのではなく、みんなで開発してみんなで共有すべきだという思想がある。以下の条件が整ったものをオープンソースと呼ぶ。一般的には、ソフトウェアについて、

  1. 開発者の許可無く自由に市場で流通できる
  2. プログラムのソースコードが開示されている
  3. 自由に改良することができる
  4. 改良者はオリジナルと必ず同じライセンス条件を用いる
  5. 人や団体、使用分野、関連する製品などで差別しないこと

 等の要件が整ったものをオープンソース・ソフトウェア(OSS)と呼ぶ。

オープンソースだから安いわけでも安全なわけでもない

 OSSは商用ソフトウェアに比べて安全性が高いと評されることもあるが、実は科学的な根拠はない。Linuxの被害が目立たないのは、マイクロソフトが提供するソフトウェアを攻撃した方が被害も大きいし有名になれるとの心理が作用している。

 OSSでシステムを構築すると価格競争力があると評されるが、ライフ・サイクル・コスト評価において価格的に優位であるとの具体的な事例に乏しい。

 但し、半導体価格が低下しシステムに組込まれるCPUの数が増えてくれば、CPUの数をベースに課金しているソフトウェアに比べOSSは優位になる。

知的財産(いわゆるGPL問題)について

 OSSの知的財産は、一般的に処理が難しいといわれる。というのも、開発事業者が、OSSと連動して動くソフトウェア製品やシステムを開発した場合、どこまでがOSSでどこからが自分の商用ソフトウェアなのかが判然としないからだ。また、ユーザーから見ると、商用ソフトウェアが混ざったOSSを配布されても、OSSだといわれて渡されてしまえば自分では著作権侵害してもわからない、とか、自分の業務上のノウハウにあわせるためカスタマイズしたOSSを事業所内で配布したら、そのソースコードも外部に公開せよといわれたとか、予想もしないような対応が求められることもある。こういった事態が起きないよう、OSSの側でも工夫が積み重ねられてきている。しかし、OSSが成果の公開を要求する関連ソフトウェアの開発範囲と、著作権法上権利が及ぶ関連ソフトウェアへの改変の範囲が厳密に一定しないため、この混乱は暫く避けられそうにない。日本が開発面でOSSを積極的に使っていくためにも重要な課題である。

政府がオープンソフトを推奨する理由

 敢えてシステムの安全性を議論するのであれば、政府も1つのシステムのみに依存するのではなく選択肢は多く持つ方が安全性は高いといえる。従って、UnixやWindowsに加え、たとえばLinuxを採用することは意味がある。また、エンジニアを育成する観点からは、ソースコードを読み、改変できることが次代のエンジニアを教育する上で重要との指摘も頷ける。

 しかし、政府調達でOSSを義務付けるとの議論は、WTOの政府調達コードとの関係において違反する疑義がある。また、現時点ではベンダー側も十分な開発体制やサポート体制を整備しているとはいえない。政府調達は、価格と技術の両面で評価するとの方式に見直されており、Unix、Windows、OSS等に公平な機会を与えることが、調達側の利益に最も寄与する。

OSSはシステムインテグレータ(SI)に福音か

 SIの心理は複雑だ。大手のSIは、メインフレームやUnixの方が売上は上がるが、気が付けばシステムの中身は海外企業の製品ばかり。オープンソースを使いSIとして主体性を発揮したいがユーザーからの価格下げ圧力の中で、売上は減り、一方で、エンジニアの育成、開発・サポート体制の充実に係る負担は増大する。ビジネスモデル転換に必要な移行コストをどのように負担するのかが問題となる。積極的ではないが、流れであれば仕方がない、というところである。

 中小のSIは、暫く大手のSIや顧客の様子見となる。先進的なNPO的グループを除くと、本音はWindowsの方が扱い易いと考えている。現時点では、中国の下請け事業者等との厳しい競争の中での生き残り策の方が焦眉の急である。

利用先として先行するのはサーバー周り。クライアントには時間が必要

 OSSの利用はサーバー周りで先行している。技術的な課題は安定性・信頼性。ソフトウェアだけでは解決できずハードウェアも含めたブレークスルーが必要となる。目標は、99.999%のミッション・クリティカル領域での適用である。

 アプリケーションは、既存ソフトウェアとの互換性が常に議論となる。注目されるのは、ネットワークの帯域価格が低下することにより軽いクライアントが現実味を帯びる中で、OSSが採用される可能性である。

情報家電への適用は待ったなし

 情報家電−デジタルTV、ホーム・サーバー、携帯電話、カーナビ等−は、日本企業が競争力を誇る分野である。これらの機器に組込まれるOSの選定に当たっては、OS自体は製品の差別化に直接寄与するものではないこと、国際的に技術者を確保できること、リアルタイム性・安定性に優れること、アプリケーションの開発について共通のプラットフォーム(API)が定義されること、特定のデバイスに依存しないこと、等の要件が考慮される。OSSは有意な選択肢となる。 まだまだ、議論・整理すべき点も多い。本稿についてのご批判を賜りたい。

 なお、本稿の執筆に当たり、村上敬亮氏(経済産業省情報経済課課長補佐)にご尽力頂いたことを申し添えたい。

著者略歴
福田秀敬
経済産業省 大臣官房参事官、RIETI(経済産業研究所)コンサルティングフェロー


RIETIサイト内の署名記事は執筆者個人の責任で発表するものであり、 経済産業研究所としての見解を示すものではありません

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