数日間電子メールなしで過ごせといわれたら、自分の腕を噛み切ってしまう方がましだと考える人も多いことだろう。新興企業のMessageOne(本社テキサス州オースティン)は、そんな思いをせずにすむ製品を提供しようと取り組んでいる。
MessageOneは、故障の際に電子メールなどの通信サービスを直ちにバックアップし、復旧させることが可能なシステムを開発した。仮に空から彗星がやってきて、ある企業の西オーストラリア支社のメールサーバを蒸発させてしまったとしよう。世界中誰もそんなことを知る由もない。
「洪水や停電、またISPの回線の切断など、障害が起こる可能性は常にある。わが社の全製品シリーズは、単に障害を隠すのではなく、ビジネス全般に連続性を提供するものだ」とMessageOneの創立者であるAdam Dell会長は述べている。
MessageOneのサービスコストは、従来のバックアップシステムより90〜95%安いということも重要なポイントだ。IBMのGlobal Services部門は、同社のBusiness Continuity Recovery ServicesでMessageOneのソフトウェアを販売する契約を結んだ。他にも、複数の大企業顧客がMessageOneサービスの利用を検討中だ。
33歳のDellは、名前からも想像がつくと思うが、Dell一族の一員だ。パソコン市場の鬼才Michael Dellの弟である彼は、弁護士事務所のWinstead Sechrest and Minickの元弁護士で、現在はImpact Venture Partnersの経営パートナーのほか、XO Communicationsの取締役や、コロンビア大学大学院ビジネススクール助教授も勤めている。
必要なものだけを保存する
MessageOneの最高経営責任者(CEO)Satin Mirchandaniによると、同社ソフトウェア機能の根底にある原則は、人々は保存してあるもの全てを必要とするわけではない、ということだという。災害復旧システムの本質的な機能は、別の建物や都市に物理的に配置されたバックアップ用のサーバやストレージシステムからメールなどのデータを複製することだ。メインサーバに災害が生じても、このバックアップネットワークには影響がないようにしなくてはいけない。
全てが想定通りに進めば、従業員はすぐに代替ネットワークにログオンして、故障による手痛いギャップを防ぐことができる。その手痛いギャップの例としてMirchandaniは、従業員2000人の法律事務所で電子メールトラブルが生じ、従業員がみな電話の使い方を忘れていたため、2日間ほぼ業務停止状態だった実例を挙げた。またあるメーカーでは、システム故障中に注文がライバル会社に行ってしまったため、100万ドルの損失が出たとのことだ。「電子メールは企業にとってキラーアプリなのだ」とMirchandaniはいう。
現行のデータ複製システムは全てのデータをバックアップするため、残念ながらコストが高くなってしまう。ミラーサイト構築に必要なサーバやストレージ、ネットワーク機器、ソフトウェアを揃えると数百万ドルかかってしまう上、企業はその管理のための従業員やコンサルタントを雇う必要がある。緊急ネットワークルーム用にサービスプロバイダからスペースを借りるのも決して安くはない。
こういったシステムとは対照的に、MessageOneのソフトウェアではシステム管理者が比較的簡単にデータ保存ポリシーを設定できるようになっている。上級副社長のメールアカウントは全部保存し、発送係のメールは特定のメール以外基本的に7日間だけ保存するといった具合だ。
ポリシーが設定されると、システムは自動的にデータを2つのネットワーク上で同期させる。2つのネットワークとは、メインシステムとバックアップ用のネットワークだ。また、新入社員のバックアッププロファイルを作成したり、会社を辞めた人のプロファイルは破棄するといったプロファイル管理も行なう。
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MessageOneを採用した場合でも、企業は緊急ネットワークプロバイダからスペースを借りる必要がある。しかし、必要なエネルギーとコストは通常よりはるかに少ない。Mirchandaniによると、従来のバックアップサービスのコストは、従業員1人あたり1カ月に120〜200ドルだというが、MessageOneのサービスだと、コストは1カ月あたり10ドルで済む。「われわれは90%の機能を10%のコストで提供しているのだ。3年前のデータが本当に必要かどうかは疑問だからね」とMirchandani。
MessageOneのソフトウェアには、セキュリティを強化する機能もいくつか盛り込まれている。また、データはオリジナルの状態でも、法廷公認の形でも保存できる。これは金融会社や法律事務所にとって必要不可欠な機能だ。それから、マサチューセッツ工科大学での研究プロジェクトの副産物として、バックアップシステムはLinuxでも稼動するようになった。つまり、メインネットワークがMicrosoft Exchangeのウイルスにやられたとしても、同じウイルスでバックアップシステムが被害に遭う心配はないのだ。
落とし穴はないのか?
安価で、一部Linuxを使用したシステムだというのなら、なぜ災害復旧システム大手メーカーはこのようなシステムを自ら作らないのだろうか。全てがオープンソースというわけではないからだとMirchandaniは説明する。MessageOneは同期技術とストレージ圧縮に関する技術で特許を登録および申請している。
さらに、大手サーバ企業はシステム構築で収入を得る傾向にあるが、同社は基本的にそのようなサーバ企業にソフトウェアを販売しており、自らバックアップネットワークを構築して競争してはいない。災害対策システム最大手のIBMは、MessageOneのソフトウェアを採用予定だという。MessageOneは8〜9カ月前から同製品を出荷している。
「SunGardやIBM、HPは、自らソフトウェアを構築することも可能だ。しかし既にソフトウェアを構築した企業があるので、自社で構築するか、それとも購入するかという選択ができる」と、災害復旧を追跡調査している調査会社、Osterman ResearchのMichael Ostermanは言う。Ostermanは、低コストと迅速な同期システムが、MessageOneの最大のセールスポイントだと指摘する。
大手サーバメーカーは、MessageOneのソフトウェアを採用することで自社サービスを拡大できる可能性もある。現在MessageOneは、ほぼ全ての主要電子メールプラットフォームのバックアップが可能だ。さらに、まもなくResearch In Motionのポケベル、BlackBerry用のバックアップサービスも提供するとMirchandaniは述べている。音声やインスタントメッセージのバックアップ、また大災害とまではいかない短期間の故障のためのバックアップなども、今後の展開として考えられるとのことだ。
「われわれにはチャンスが山のようにある」とDellは、兄のMichaelと同じ神秘的で穏やかな声で語った。「われわれは、システム故障問題への新たな技術的アプローチを提供しているのだ」
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