投資家を突然襲う「完全子会社化」という魔物

 3月上旬、東証1部上場の新日鉄化学の株価が突然暴落した。3月6日には195円(当日高値)をつけていた株価が、わずか2営業日後の10日には安値99円と一時はほぼ半値まで暴落したのだ。

 この新日鉄化学という会社は、社名からも分かる通り新日本製鉄の子会社で、石油化学関連製品や炭素系素材を主力とする化学会社として知られている。最近では携帯電話向けなどに需要が急増しているフレキシブルプリント基板用無接着剤銅張積層板(2層CCL)や、次世代ディスプレイとして期待を集めている有機EL向けの発光材料等を手掛けるなどIT関連分野の事業に積極進出し、高収益企業への道を歩み出そうとしていた。

 ところが、3月6日に親会社の新日鉄が突然「新日鉄化学を株式交換方式により、7月末に完全子会社化する」と発表したのだ。株式交換とは、M&A(企業の合併・買収)や持ち株会社設立の際に株式の移転を簡単にする制度である。買収の場合、買収される企業の発行済み株式と親会社が新たに発行する新株を交換するかたちをとるため、買収される側の一部株主から反対があっても親会社はその企業を100%完全に子会社化できる。そして当然のことながら、完全子会社化された企業は上場廃止となる。この株式交換による完全子会社化は、IT不況が深刻化してきたここ数年の“トレンド”ともいえるだろう。昨年10月には親会社の松下電器グループの再編に絡んで、松下通信、松下精工、九州松下電器、松下寿電子の優良ハイテク企業4社が同時に上場廃止となり、オーディオメーカーのアイワもソニーの完全子会社化によって株式市場から退場していった。

 さらに、この株式交換で問題となるのは「株式の交換比率」だ。通常この株式交換比率は、両社の1株利益などの収益状況と株価を参考に算出することになっている。しかし、新日鉄化学は前3月期の最終損益が赤字だったのに続いて、今回の完全子会社に伴って今3月期の最終損益についても樹脂関連事業の売却損を計上することになり、従来予想の収支五分五分から320億円もの大幅赤字になるのだ。

 中堅証券の投資情報部では「今回の株式交換による完全子会社化発表で新日鉄化学の株価が暴落したのは、同社IT関連分野の電子材料事業がようやく軌道に乗りはじめ、連結最終損益でもようやく黒字転換の可能性が見えて株価も200円に届いてきた矢先に最終損益で大幅赤字計上され、株式交換比率が新日鉄化学にとって非常に不利な水準になるのでは(実際の交換比率は5月下旬に発表される予定)との懸念が高まったためだ」としている。

 実際のところ、株式交換比率が買収される子会社にとって不利になればなるほど、親会社の買収費用(新株の発行)は少なくて済むということは否定できない。いずれにしても、IT関連の電子材料事業の開花を期待して新日鉄化学の株主となった投資家が、突然の完全子会社化発表によって損失を被ったということは事実である。

 今後も親会社の自己中心的ともいえるグループ戦略の実現のために、ある日突然完全子会社化が発表され、株価の乱高下を強いられる子会社企業が続々と出る可能性が高い。これまでは、親会社が巨大企業であるということは、その系列子会社の株価形成の面でプラス材料とされてきたが、今後は大きなリスク要因としても判断しなければならないようだ。


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