平均42万ドルを儲けたハイテク企業社員

Margaret Kane (Staff Writer, CNET News.com)2003年02月21日 10時41分

 ここ2年ほど、ハイテク企業株の低迷が相次いでいるのを受けて、ハイテク業界で働く人々は価値のないストックオプションにひどく舞い上がっていたというのが一般の通説になっている。しかし、ハイテク企業社員は実際バブル期にストックオプション利益でかなり儲けていて、その金額は約780億ドルに上ると主張する新刊書が出た。

 Joseph Blasi、Douglas Kruse、Aaron Bernsteinの3人による共著"In the Company of Owners: The Truth About Stock Options (And Why All Employees Should Have Them)"(「所有者自身が働く企業:ストックオプションの真実(そして、全従業員がそれを持つべき理由)」)には、インターネット企業上位100社に勤める幹部以外の従業員が、1994年から2002年7月までの間にストックオプションによって平均42万5000ドルの利益を得たと記されている。

 BlasiとKruseはRutgers大学経営・労働関係学大学院の教授で、Bernsteinは米Business Week誌の編集委員を務めている。

 著者によると、インターネットによる売上が全売上の半数以上を占める大手企業100社では、ストックオプションにより、従業員が会社の株式を平均で19%所有していることが分かった。これと対照的に、ニューヨーク証券取引所上位100社の従業員の会社所有率は、わずか2%だ。

 「業界全体で、幹部だけでなくさまざまな部門の従業員にこれほど多くの企業所有権を与えるというのは、現代企業史上初めてのことだ」と本には記されている。

 このような本が出版される現在では、1990年代末に見られたストックオプションに対する期待は、もはや消え失せている。エコノミストや政策アナリストの中には、ストックオプションは動機付けの道具としての価値よりも、コストのほうが大きいと主張する者もいる。

 ストックオプションによって、企業は会計上の支出を計上せずに、企業幹部に多額の報酬を与えることが可能だ。しかし新法案では、企業はストックオプションを計上する必要があるため、収支が深刻に悪化する企業が出てくる恐れがある、と現行擁護派は主張している。

 CNET News.comはこの本の調査結果、およびハイテク企業におけるストックオプションの過去と今後について、著者の一人Joseph Blasiに話を聞いた。

――ストックオプション制度は、ハイテク企業から始まったわけではありませんよね。ストックオプションの歴史について少し説明していただけますか?

 私は1991年にDoug Kruseと共に出版した本の中で、Procter & Gamble(P&G)など大手企業における従業員の企業所有権について調査しました。P&Gは今までずっと、従業員による自社株所有率が4分の1から3分の1を占めています。1800年代末のP&Gは、米国内および国外で利益分配制度を推進する主な企業の1つでした。基本的には創立者の1人であるWilliam Procterが、自分と会社のために1800年代末に利益分配制度を発明したと言えます。

 従業員の持株制度と企業モデルは新たな展開を見せています。それは、ハイテク企業での広範囲かつ大量のストックオプション利用です。ハイテク企業に関しては、4つの波があります。まず、幅広い富の分配という考えに基づく設立者の波。これは、Hewlett-Packard(HP)や初期のIntelなどで起こりました。次に、MicrosoftやAppleなどの企業で起こった開発者の波。その後ごく最近にも波が生じており、それこそがこの本の対象であるハイテク大手100社で起こっていることです。そして本の最後では、次に来る波としてバイオテクノロジー企業を挙げています。

――この本では、ハイテク企業社員が平均で42万5000ドルの利益を得たと述べられています。この額は巨大に思えるのですが、これは単に計算上の利益でしょうか。それとも従業員は実際に現金で受け取っているのですか。

 我々は幹部以外の人々、つまり上級幹部5人を除く従業員を調査しました。というのは、ほとんどの企業では、上級幹部が全オプションの上位20%を得ているためです。この金額は、企業がオプションの権利行使に関する書類で述べている内容に基づいた見積もりです。また一般に低級幹部やマネージャー、従業員の場合、権利を行使しオプションを売って現金を得るケースが多いという複数の調査にも基づいています。また、この金額は、行使されたオプションが全て売買され、現金化されたという想定の下で試算されています。権利を行使しながらも売らなかった人が全体の10%いると思うのであれば、見積もり金額を下げてもかまいません。しかしながら、幹部未満の社員の大半が権利を行使して利益を得ていることを、あらゆる証拠が示しています。MicrosoftやIntelやAppleなど、初期の波に登場した多くのハイテク企業の従業員が、80年代から90年代にかけて広く与えられたストックオプションのおかげで巨額の富を手にいれたのは、間違いありません。

――企業所有権についても説明していただけますか?

 ハイテク会社では、上級幹部5人を除く従業員が、全株式の平均19%をストックオプションで、約2%を従業員持株制度によって保有しています。一方、従業員の大半がオプションを持たない一般の米国企業では、従業員による会社所有率は2%です。企業の成長によって得られた利益を分配するシステムはハイテク分野で発展しており、伝統的な企業組織とは大きく異なるものです。

――これは、株主にどういう意味をもたらすのでしょう?

 我々がこの本を執筆している間にハイテク株の売却が相次ぎ、極端に疑い深い人々から、「ハイテク株売却の波は従業員の企業所有権に促されたもので、企業所有権によってハイテク株の価値が下がっているのではないか?」という質問を数多く受けました。我々は、一般の従業員に対して現場でのインタビューやグループ討議を数多く実施しました。その結果、従業員の頭脳や顧客との関係性が自社の製品や利益となるような情報集約型の企業では、従業員への利益分配こそが情報の質や顧客満足を高める上で重要だという結論に達しました。こういった情報集約型企業が成し遂げた成功は、利益分配システムなしにはあり得なかったと我々は考えています。

 こういった企業はほぼすべて、創立者の持株よりも従業員全体の持株の方が多くなっています。つまり、創立者は自らの関与を減らす決断をしたわけです。本当に必要性に迫られていなければ、このような決断を下すことはないでしょう。

――従業員の持株が、ハイテク株売却を促したという証拠はあるのですか?

 そのような証拠は全く見つかりませんでした。売却の波は、過剰設備や市場一般のバブル、そしてブロードバンド早期普及についての過度に楽観的な予測など、識者らが指摘している要因すべてによるものだと思われます。広範囲の従業員による企業所有権が原因ではないと考えています。

 ハイテク企業の従業員がオプションで得た利益と、株主が受けた損失とを見比べると、株主はおそらく非常に怒っているに違いありません。しかし従業員以外の株主の中にも、良いタイミングで株を売却して数百万ドルを得ている人が多くいることを認識すべきです。

――株主にとっての本当のコストはオプションを供与することにあるのではない、と考える人々がいます。彼らは、オプションの真のコストが現在きちんと計算されておらず、企業はオプションを支出として扱うべきだと主張していますが。

 オプションにはコストがあり、そのコストは権利が行使されたときに、株主のもつ株を希薄化させます。企業は権利が行使されたときに、1株あたりの利益が減ったことを報告しなければなりません。我々は、この報告がもっと詳細で、株主にとってより分かりやすいものであるべきだと考えています。しかし株の希薄化に関して言えば、株主に対するオプションのコストは、既に報告されています。

 現在問題となっているのは、オプションのコストが賃金のように報酬コストであるべきかどうかという点です。我々は会計士ではありませんが、特に幹部以外の従業員については、広範囲に及ぶストックオプションは長期的なリスク共有の1つの形態だと考えています。したがって、長期的なリスク要因の一つとして、会計上報告されるべきでしょう。オプションを支出として扱っても、本質的な解決にはなりません。本当に問題なのは、オプションによって一般の米国企業における幹部の報酬が驚くほど巨額になっている点です。米国企業は今、「これはこういうものなのだ」と言わざるを得なくなっているのです。

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