マーク・アンドリーセンの提言「新たなIT危機を回避せよ」

マーク・アンドリーセン2002年12月30日 22時47分

 フォーチュン2000企業において、最もやっかいで報われない職務は何だろう? 例えば、失敗したときだけ注目される仕事、経費を使いすぎだと非難される仕事、そして過去1年で作業負担が3倍も増えている仕事。ちょうどこのような状態にあるのが、今日の情報技術(IT)だ。

新たなIT危機を迎えて

 この危機は企業の収支に大きな打撃を与えつつある。現在、平均的な大規模企業は、売上高の7〜8%をITに注ぎ込んでいる。そのうち約70%がデータセンターの管理にあてられる。E-ビジネスの展開、2000年問題に関する再設計、ウェブ対応のアーキテクチャーへの移行などが次々と押しよせ、IT部門はあえぎながら作業をこなしている。

 過去10年間、IT部門は社内の同僚が技術の時流に乗る手助けをしてきた。そして今、IT部門こそが時流に飛び乗るべき時となったのだ。もっとはっきり言うならば、IT部門は再改革を必要としている。

 もう何年も前、電話システムは完全に人間の手で操作されていた。オペレーターが手作業で通話をとりついだ。サービスは貧弱で、ひいき目に見ても、システムの一貫性は疑わしいものだった。電話の利用者が増えるとともに、電話システムは破綻し始めた。通話は途切れ、回線は混雑した。間違った相手につながることもあった。その結果、電話会社は技術を導入し、自動システムを構築せざるをえなくなった。

 そして現在、われわれは受話器を取ると発信音が聞こえるのが当たり前のことと思っている。

 現在のフォーチュン500企業のデータセンターをのぞいてみれば、電話システムの成り立ちと大きく似通っていることに気付くだろう。サーバーやアプリケーションがたくさんの部品と床を這うケーブルで接続され、おまけにチューインガムまでくっついている始末。システム管理者の集団が手動で何やら操作し、受け持ちのアプリケーションの動作を必死で維持している。

 現在のウェブアプリケーションは数十台、場合によっては数百台のサーバーを稼動させなければならない。IT部門はもうお手上げだ。この状況を打破するには、自動化を進め、ユーティリティコンピューティングを採用するべきだ。ITシステムの使用法と操作法を電話システムと同様のレベルまで簡素化し、手作業を不要にする。

IT部門がサービスを提供する体制において根本的な改革を進めれば、絶大な効果が得られる。

 しかし、ITシステムの刷新は、一夜で簡単にできるものではない。正常に稼動していたものをすべて停止させて、顧客に「半年後にまた使えるようになります」と言うわけにはいかない。公益事業のように、あっと言う間に技術を実装して運用を再開するということも無理。スタッフがたちどころにロボットに置き換わるわけでもない。正直なところ、かつて経理部門や販売部門がERP(企業向け基幹業務システム)やSFA(営業支援システム)を導入しようとした時と同じくらい難しいことなのだ。しかし、現在の販売部門に、流通経路や取引、製造割当量などの予測を手作業で行う体制に戻りたいかと尋ねれば、「まさか」と答えるに違いない。自動化は営業や財務部門で確実に定着しているのだ。

 そして、今こそIT部門は前に向かって歩み始めるべきだ。事業が再び盛り返したとき、成功の“足手まとい”ではなく“立て役者”になりたいのならば。社内の各事業部門はIT部門に高いレベルのサービスを要求する。CIOは、IT部門がどのように業務を進めているか、予算を使っているか、将来の計画を立てているか、綿密に検討している。

 IT部門がサービスを提供する体制において根本的な改革を進めれば、絶大な効果が得られる。新たなサービスに対する各事業部門の要求や変更に、1週間や1ヵ月どころか、1日で対応できるようになる。

バブルの熱狂と興奮は過ぎ去った。
人々は冷静になり、何が結果をもたらすかしっかり検討することができる。
なんとなく時流に引きずられるのではなく、実際に将来の成長を見据えた計画を立てられるのだ。

 わずか数分で世界中にソフトウェアのパッチを実装できれば、企業のITシステムのセキュリティは10倍向上するだろう。主要製品のリリースを控えたマーケティング部門は、共有の追加リソースを利用することで、数百万ドルの節約を実現できる。1年に1回のトラフィック急増に対応するために、わざわざ追加のハードウェアやソフトウェアを購入しなくてもよいのだ。

 そう、今こそ行動を起こすべき時だ。バブルの熱狂と興奮は過ぎ去った。人々は冷静になり、何が結果をもたらすかしっかり検討することができる。なんとなく時流に引きずられるのではなく、実際に将来の成長を見据えた計画を立てられるのだ。多数のITスタッフがリスクを避ける傾向にある昨今だが、この変化は無視するわけにはいかない。十分に時間的余裕がある今行動を起こさなければ、いざ経済が回復し始めた時、ライバルに遅れをとることになる。

 なぜならその時には、顧客は今ほどダウンタイムやシステム停止に理解を示さなくなるからだ。顧客が期待するサービス基準は高くなり、それに対応できる企業だけが次の競争で成功を手にすることになる。


筆者略歴
マーク・アンドリーセン
イリノイ大学在学中にMosaicブラウザーの製作に参加した後、ジム・クラークとともにNetscape Communicationsを創業。現在はITシステムの管理を自動化するソフトウェア企業Opswareの会長を務める。

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