受賞企業インタビュー:三三株式会社
名刺管理をベースに、“人のつながり”の見える化目指す--三三の寺田社長
Emi KAMINO、岩本有平(編集部)
ビジネスにおいて欠かすことのできないツールである「名刺」。紙というアナログな媒体の名刺をデジタル化することによって、単純な情報管理にとどまらず、営業の効率化や顧客管理に利用することを目指すのが三三の「Link Knowledge(リンクナレッジ)」だ。Tech Venture 2009にて準グランプリと審査員特別賞を同時受賞した同社代表取締役社長の寺田親弘氏に話を聞いた。
--三三の提供する「Link Knowledge」について教えて下さい。
Link Knowledgeは、顧客にスキャナー1台と専用のアプリケーションを提供し、データ入力の代行と名刺管理、顧客管理、営業管理のためのSaaS型ソフトウェアを提供するクラウド型のサービスです。
Link Knowledgeでは、名刺交換をビジネス活動のログであるという視点でとらえています。日本ではだいたい年間50億枚くらいのやり取りがされていると言われていますが、おそらく99.99%がそのまま机の引き出しに眠っている状態ではないでしょうか。それらを整理し、データベース化する仕掛けを作るというのがビジネスの着想の起点です。
そこでまずは顧客から送られたスキャンデータを元に、2人がかりで間違いがなく手入力するというフローを提供しています。また、名刺をスキャンする段階で、いつ誰が名刺交換をしたかという情報を紐づけることにより、単なる名刺データベースとしてではなく、ビジネス活動のログとして管理できるようになるというのが特長です。
このサービス利用することでまず、名刺の管理や整理に関わる無駄な時間を削減し、従業員の生産性を高めることが可能です。それだけでなく、データベースと連動し、ユーザーが名刺を交換した企業に関する人事異動情報や、東京商工リサーチの企業データや最新情報などもLink Knowledge上で配信しています。
--起業に至った経緯を教えてください。
ビジネスの原型は10年ぐらい前からすでにありました。私は以前に三井物産でコンピューター関連機器輸入などを手掛けた後、シリコンバレーに行ったりもしたのですが、働く中で名刺に関わる非効率性を感じていました。
たとえば毎日いろんな人に会うわけですが、ある人に会うためにいろんな人のツテを頼り、ようやくたどり着いた矢先に「実は先週御社の○○さんと会いましたよ」と言われ、それを本人に確認すると「あぁよく知っている人だよ。言ってくれたら紹介したのに」と言われるということもよくありました。
別に隠しているわけでもないのに、こういった情報は意外に社内で共有されていない場合が多く、これをどうにかできないかと思っていました。
それから、シリコンバレーに派遣された際は、現地のベンチャー企業と多数接触したのですが、そこで感じたのが名刺に対するカルチャーの違いでした。日本ではまずは名刺交換からビジネスが始まるのに、米国では連絡先の交換としてしか名刺交換をとらえていなかったりします。名刺に対する意識が日本より圧倒的に低いのです。
つまり、当時ITの最先端の米国において我々が今やっているようなビジネスモデルがないのは(ニーズがなくてビジネスにならないといった理由でなく)日本とは名刺に対するニーズが若干違うのが理由だと理解しました。
私自身は10代のころから起業したいという思いがありました。そして人脈や自分の実力などを踏まえ、いざ起業するとなった段階になって検討したところ、やはりこの名刺というビジネスに行き当たりました。
--米国では名刺のニーズが異なるということでしたが、日本に特化する方向でサービスの展開を考えているのですか。
むしろ海外は非常に意識するところです。米国で名刺の文化の違いを感じたとは言いましたが、名刺は世界中どこにでもあります。マーケット規模の大小はあるにせよ必ずそこに市場がありますから、名刺を価値が高いととらえる日本のマーケットで商品と競争力を高め、次の段階では海外に持っていき、「日本発、世界のビジネス」にしていくというのが目標でもあります。
--名刺は簡単に交換できる便利なツールである一方、個人情報の1つでもあります。自社の名刺を外部で管理するという御社のビジネスに懸念を抱く顧客企業はありませんか。
直感的にLink Knowledgeの話を聞いて、「この会社に名刺を預けるのは大丈夫か」と思われる方も確かにいます。しかしこれを正しく説明をしていくと、むしろ情報統制の観点でプラスに感じていただける企業も非常に多いです。
Link Knowledgeを導入していない場合、名刺は個人個人がバラバラに管理するというのが一般的ではないでしょうか。つまり誰かが会社を辞めれば、その人が管理していた名刺は全部持って行くという場合がほとんどです。
ですがLink Knowledgeを利用した場合、一度スキャンした名刺は会社側がまとめて管理するということも可能です。そうなると、紙もデータも会社で一元管理できます。オンライン上にあるデータはダウンロードできますが、その権限についても管理できるので、会社としての情報統制も可能です。
--現在は法人向けにサービスを提供されていますが、将来的には個人向けの展開も視野にあるのでしょうか。
最終的には個人向けのサービスの提供も考えています。ただし、個人向けで目指すのは、個人で手に入る便利な名刺管理ツールという観点だけでなく、その延長で広がることを前提としたビジネス向けソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のような展開を意識しています。
ですので、名刺をキーにデータベース化を行うという共通項としてありますが、その先の方向性はエンタープライズ向けとは異なる路線です。とはいえ、個人向けでもエンターテインメントではなく、あくまでビジネス向けのサービスとして提供できないか考えています。強いて言うならばビジネスSNSである「LinkedIn」のようなイメージを考えています。
--2009年の目標を教えて下さい。
まずは2009年末までに「Link Knowledge」を500社に導入することを目標にしています。また、個人向けサービスについては、今年中にプランニングを終えたいと考えています。
また、次のコンセプトとしては「名刺から人へ」というものがあります。いまは名刺を核に、エンタープライズ向けの顧客データベースを作っていますが、今後は人や会社を意識してデータを集約していくようなシステムアーキテクチャを目指したいです。簡単に言えば、名刺のデータをもとに会社としての名寄せをした情報やソリューションが提供できる仕組みを作ることができればと考えています。
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