受賞企業インタビュー:株式会社フィルモア・アドバイザリー
グラフの新たな利用方法を提案し「データ版YouTube目指す」--フィルモア・アドバイザリー森氏
Emi KAMINO、岩本有平(編集部)
ブラウザ上でデータを検索し、グラフを作成・共有できるサービス「vizoo(ビズー)」の提供を5月に控えるフィルモア・アドバイザリー。Tech Venture 2009で準グランプリを受賞した同社は、「データ」の利用で世界進出をねらうという。代表取締役の森航介氏に今後の展開を聞いた。
--フィルモア・アドバイザリーを設立した経緯を教えてください。
私は銀行出身ですが、2004年から2年間シリコンバレーに留学していた際に、現地の起業家やエンジニア、学生などとさまざまなプロジェクトに関わる中で、ウェブ関連のビジネスを自分で立ち上げることに強い興味をいだくようになりました。
2006年夏に独立・起業し、海外ヘッジファンドに日本株リサーチを提供することで会社を回しながら、真にユニークでスケールするビジネスモデルについてじっくり考えました。私は金融出身なので金融とウェブを組み合わせるというのは自然な流れでした。さらに米国の事業モデルなどを広範に研究したり、社内外でブレストを重ねたりしながら、「vizoo」のコンセプトを考案しました(編集部注:ベータ版(無料)の公開は5月の予定)。
--vizooとはどのようなサービスなのでしょうか。
一言で言うと、経済データをグラフで共有して、新しい発見や発想を促すことを目指したサービスです。企業財務や株価、経済指標などを簡単に検索し、グラフィカルに分析できるほか、そうした分析の切り口をFlashのグラフコンテンツとしてYouTubeのように公開・共有することができます。グラフはデータベースと連動しますので、データ更新に合わせてグラフが更新されるのも特徴です。
ベータ版リリース後は、金融データ以外にもデータのカバレッジを広げるとともに、vizoo Proという法人向けのデータ分析・ナレッジ共有ツール(有料)のリリースも予定しています。
ターゲットとなるユーザーはナレッジワーカー全般、もう少し具体的に言うと、いろいろな数値データをGoogleで検索して、エクセルに打ち込んで、分析や資料作成をしているような人々すべてです。また、個人投資家や経済ブロガーの方にも、ヘビーユーザーになっていただけると考えています。
一般的には難しそうと思われている財務データや経済指標を、誰でも気軽に使っていただけるようにしたい、そしてそうしたデータの見方や切り口を集合知的に共有できるようにしたい、というのがコンセプトです。一方、法人向けのvizoo Proは、金融機関や事業会社の企画やIR担当者にご利用いただきたいと考えています。百聞は一見に如かずですので、ぜひベータ版を触ってコンセプトや使い勝手を体感していただきたいと思います。
サービスは法人個人を問わず基本無料で提供します。ただし、サイト上でデータを共有したくない場合やExcelでのデータダウンロードなどは有償で提供する予定です。
--vizooではどのようなデータが提供されるのでしょうか。
ベータ版リリース時点では、上場企業の財務データやIR情報、株価・為替・金利といった市場情報、主要な経済指標・業界団体統計をかなり広範にご提供します。「こんな便利なデータがこんなに簡単に使えるのか」、とびっくりされる方も多いのではないでしょうか。ユーザーが独自にデータをインポートするCGM的な展開も近いうちに取り込んでいく意向です。
その後は順次、弊社でご用意するデータの種類や範囲を広げていくと同時に、ユーザー自身がデータをインポートできる機能などもリリースしていく予定です。法人向けのvizoo Proでは、法人ユーザーが社内データをマッシュアップしてBI(ビジネス・インテリジェンス)ツール的にご利用いただけるようなサービスもご提供します。
--CGM的なデータは、ユーザーの善意を前提にしたものであり、信頼という点では不安も残ります。データの整合性や信頼性についてはどのように考えていますか。
グラフコンテンツについては作者名を表示しますし、データについてはソースを表示してその出典を明らかにします。また、弊社が提供するグラフやデータとユーザーが提供するグラフやデータは区別・ソートすることが可能です。加えて、参照回数やレーティングなどで、ある程度自動的に振り分けがなされていくようにしたいと思っています。
--グラフ生成ツールなどは他社も提供していますが、これらが競合になるのでしょうか。
直接的にビジネスモデルが同じという競合はないと思います。ブラウザベースのグラフ生成ツールなどはいくつかありますが、ビジネスモデルが根本的に異なります。将来的に直接の競合になりうるとすれば、伝統的な金融情報ベンダーといわれている企業かもしれません。
我々は、あらゆるデータを汎用的に扱える点や、グラフやデータの更新管理の点で技術的な強みをもっており、それらを生かしながら、データをお持ちの企業とはむしろパートナーシップ的なおつきあいができればと考えています。データの潜在的価値は、ごく一部の専門家だけでなく、我々のような一般人も利用できるようになることでより大きく顕在化するはずです。vizooを、そうしたすそ野へリーチするチャネルとして認知していただければ嬉しいです。
--vizooの具体的な料金体系などはすでに決まっているのでしょうか。
基本機能については無料でご提供しながら、プレミアムアカウント的に有料エリアを設けたり、従量課金を導入したりすることを視野に入れています。
また、法人向けのvizoo Proでは、月額固定料金で使い放題というサブスクリプションモデルを想定しています。将来的には、広告やカスタマイズ開発といったニーズも生じてくるでしょうし、そうした方向での展開も考えています。
--御社は米国のベンチャーキャピタルであるDCMからの出資を受けてvizooの事業を始めました。今後の海外への展開はどう計画されていますか。
日本は市場規模の大きい割にすごく閉鎖的な、「偉大なるニッチ・マーケット」だと思っています。vizooの事業ドメインでも、新サービスやベンチャーの登場ということに関して世界レベルでは「誰も気にしていない」というのが現状です。弊社では、こうした状況を逆手に取って、まずは日本でコンセプトを立証し、日本を基盤としながら世界に打って出ていきたいと考えています。
もともとそのような考えを持っているので、システムも多言語化を織り込んだアーキテクチャにしていますし、海外でデータを接続すればそのまま使えるような仕組みにもしています。そして、なにより我々が扱うソニーやトヨタといった企業のデータはすでに世界的なニュースでもありますから、vizooのグラフコンテンツはある意味ではYouTubeと同じような国際性を最初から備えていると思います。
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