最終更新時刻:2011年2月28日(月) 21時26分
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受賞企業インタビュー:芸者東京エンターテインメント株式会社

技術とクリエイティブを組み合わせ、インタラクティブなコンテンツを世に問う---芸者東京エンターテインメント田中氏

岩本有平(編集部)、アンジー

 拡張現実(AR:Augmented Reality)技術を活用した「電脳フィギュア ARis(アリス)」の提供で2008年に大きな注目を浴びた芸者東京エンターテインメントがTech Venture 2009にて準グランプリを受賞した。

 2006年の設立以降、モバイル向けゲームやアニメ制作など幅広いプラットフォームでエンターテインメントコンテンツを提供する同社は、今後どういった企業を目指すのか。同社CEOの田中泰生氏に聞いた。

芸者東京エンターテインメントCEOの田中泰生氏 芸者東京エンターテインメントCEOの田中泰生氏

--芸者東京エンターテイメントはどのような会社なのでしょうか。

 東京大学をはじめとする大学のドクタークラスのエンジニア、そしてゲーム会社や同人の世界で活躍していたデザイナーやミュージシャンといったクリエイター、そしてコンサル会社出身者が集まる会社です。ハイテクを使ったエンターテイメントでユーザーに驚きや感動を提供し、「20年で任天堂を抜く」というのが目標です。

 事業内容は大きく分けて2つあります。1つは電脳フィギュアに代表される、未来へ提案する新しい分野のビジネスです。そしてもう1つは、オンラインゲームや携帯電話向けのFlashゲームといった比較的枯れた技術を使ったビジネスです。

 新分野のビジネスに向けた投資のため、すでに多くのお客さんが遊んでくれる市場にサービスを提供し、資金的な足場を作っています。自動車メーカーがコンセプトカーを作りながら普通のラインも売っているのと同じでしょうか。

 現在設立から3年目ですが、既存分野で確実に収益をあげつつ、毎年1つユーザーに驚きを与えるプロダクトを出していこうとしています。1年目は画像認識や人工知能といったテクノロジーを使った携帯電話向けサービス「それは無理だよ!オオスガさん」を開発し、2年目は電脳フィギュアARisを公開しました。2009年も秋にかけてプロダクトを提供すべく鋭意開発中です。

--電脳フィギュアのビジネスや開発の背景について教えてください。

 2007年に「電脳コイル」というSFアニメを観て、おもしろいと思ったのがきっかけです。このアニメでは、ネットに接続されたウェアラブルコンピュータである“メガネ”をかけると、肉眼では見えない「電脳ペット」が見え、コミュニケーションを取れる--そういったおもちゃが流行している近未来が舞台なんです。この発想をもとにプロトタイプを開発して2008年7月のワイヤレスジャパンに出展したところ、予想以上の反響があり、10月に商品化しました。

--2007年は画像認識や人工知能を使い、2008年はARと、それぞれ技術的には異なるサービスを提供しました。自社のコアとなるテクノロジーについてどう考えられているのですか。

 テクノロジーは非常に重要ですが、それがすべてと考えていません。たとえば任天堂は、ニンテンドーDSやWiiで成功していますが、ペン入力や加速度センサーを発明したわけではありません。彼らも、まずおもしろい企画ありきで、「テクノロジーをどう使うとおもしろいか」を考えてプロダクトを作り、それを広めることに長けていたわけです。わたしたちもそうありたいと思っています。

 電脳フィギュアの反響から、「萌え」やサブカルチャー好きなのかというイメージを持たれることがありますが、それだけで電脳フィギュアを現在のような形にしたわけではありません。ARを使ったエンターテイメントが受け入れられるにはどうすべきか考えた上で、「東京の秋葉原から発信された、フィギュア文化がサイバー化したもの」という文脈だと一番インパクトが強くなると考えたのです。わたしたちは、「(技術をおもしろい形で世の中に伝える)翻訳作業」をしていると思っています。ユーザーは文脈がないものにはお金を払いません。

 また、芸者東京エンターテインメントはARを専業でやっていく会社でもありません。おもしろい企画があった上で、それを実現する上でテクノロジーを使ってプロダクトを作るだけです。

電脳フィギュア「ARis」 電脳フィギュア「ARis」

--起業に至った経緯を教えて下さい。

 いまや、「テクノロジーが売り」とか「クリエイティブだけが売り」「販売やビジネスが得意」というだけの組織だと、人々がお金を払って欲しくなるようなプロダクトやサービスは生み出せない時代になったと思っています。おもしろい企画や今までにないアイデアがあって、それを実現するために、技術とクリエイティブ、ビジネス遂行能力を社内で全部やるような組織を作りたいと思って起業しました。

 販売チャネルを考えても、Amazonや楽天を利用し、うまくPR活動に成功すれば小さな会社であってもみなさんに購入していただくようにすることが可能です。技術も、ものすごいスピードで生み出され、枯れていくような世の中です。クリエイティブに関しても、Flashや3Dグラフィックスのソフトをはじめとしてアイデアを形にするツールはものすごく使いやすくなり、チープ革命も進んでおります。

 そんな時代においては、いかにおもしろいアイデアを形にし、多くの人に伝えていくかを、自分たちが遂行することは重要です。そして、それが上手な会社というのが任天堂だったり、アップルだったりするわけです。

 私は、コンサルティング会社を経て、ゲーム会社のテクモでモバイルゲームやオンラインゲームを作っていたのですが、その頃から広い意味でのインタラクティブなエンターテイメントの可能性に着目しました。しかしゲーム会社にいると、どうしてもすでに流行したゲームの続編を作るといった確実なビジネスに注力せざるを得ません。新しい形の遊びは作り出す力はあるのに、新興ベンチャーにその分野をかっさらわれていく、いわば、イノベーションのジレンマを感じていました。

 会社を設立して最初に、何をつくるかも考えず、自分たち自身のプロダクトを世に問うことだけ決めて、翌年の東京ゲームショウの会場をおさえました。デベロッパー業務で会社を維持しつつ、「2年以内に確実に“すごい”といわれるものを作ろう、それができなかったら会社はやめよう」と計画を立てていました。何とか2年目で電脳フィギュアを生み出せたので、やめずにすみました。

--制作体制について教えて下さい。

 自社メンバーは20人。半分がエンジニアで半分がクリエイターです。わたしたち基本的に自社製品を社内で作っています。電脳フィギュアについては、声優こそプロの方にお願いしましたが、パッケージの箱やマニュアルも含めすべて社内で作っています。社内に録音スタジオも完備しており、昨年制作したFlashアニメの「さくらんBOY DT」などは自社スタッフがそこでアフレコをしました。

--アニメ制作はどういった意図で始められたのでしょうか。

 プラットフォームの1つとして、地上波テレビで何かビジネスをできないかと考えた時、Flashアニメであればできるのではないかと思ってやってみました。このアニメの平均視聴率は約3%で、深夜アニメとしては大好評でした。現在もテレビ神奈川の「ニコバンYME」という番組内で「桜子梨子のイチオシ」というアニメを放映中です。今後はアニメのキャラクターを活用したバーチャルアイドル事業を展開できないか実験中です。

--今後の事業展開を教えてください。上場なども予定しているのでしょうか。

 まず直近では、携帯電話など、さまざまなプラットフォームで課金サービスを展開しようと思っています。一方でAR関連も引き続きマーケットを広げていきます。キャラクターの版権を持つ企業と提携した商品の開発も考えています。

 海外展開も視野にいれています。電脳フィギュアは、言語依存が低いプロダクトですし、iPhone向けのサービスも北米やヨーロッパ向けにやるべきだと思います。言語依存のあるプロダクトだと国内だけの展開となってしまいますが、僕らは違います。みんながおもしろいと思うものを作っていれば国際展開はできると思っています。

 また私たちは、少しでも多くの人にプロダクトやサービスを届けられるようになりたいと考えています。そのために必要な手段として、上場も視野に入れています。

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