総務省は、2015年までにすべての世帯でブロードバンドサービスを利用できるようにする「光の道構想」を掲げている。原口一博総務大臣が主宰する政策決定プラットフォーム「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」(ICTタスクフォース)では、5月中旬をめどに基本方針を打ち出すことが求められている。
この光の道構想について、有識者はどのように考えているのか。慶應義塾大学SFC研究所プラットフォームデザイン・ラボが4月7日に開催したシンポジウム「国家ブロードバンド戦略―“光の道”への道」で議論がなされた。
参加したのは在米ITジャーナリストの小池良次氏、ソフトバンク社長室長の嶋聡氏、イプシ・マーケティング研究所代表取締役社長の野原佐和子氏、経済ジャーナリストの町田徹氏。このうち、野原氏と町田氏はICTタスクフォースのメンバーを務めている。モデレータは慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授の金正勲氏が務めた。
光の道構想では、(1)NTTの再々編を含むアクセス網整備の方法、(2)ユニバーサルサービスの見直し、(3)規制の見直しを含む、ICT利活用を促進する法案の整備――の3点について、具体的な方法をICTタスクフォースで検討することを求めている。
町田氏は「残り1カ月半で結論を出さないといけない」とした上で、具体的な検討課題としてまず、「光の道」の整備方法を挙げた。例えば、ここで指しているインフラは何か、それを整備するのは誰なのか、そこに政府が支援する必要があるのか、公正な競争環境をどう確保するか、といったことを決める必要があるという。
インフラ面では3月末で90%の世帯にブロードバンドが普及しているといい、「残り10%をカバーするために大掛かりなものが必要なのか。それよりも、ブロードバンドを利用している人の率が低いことから、インフラを利用してもらうための政策を考えないといけない」と町田氏は話した。
ただし、このブロードバンド普及率については、FTTHやADSL、携帯電話も含んでいるという指摘が会場からなされた。また、嶋氏が「海外と同様に、国家戦略として光ファイバの整備をするべき」と訴え、100Mbpsの通信速度を目指すべきとした。
インフラの整備主体については、政府と民間が共同で出資する公共会社が担当すべきと嶋氏は主張する。「インフラを一気に整備し、市場を創造するべき」(嶋氏)
一方、野原氏は「少子化の中で、設備投資に無尽蔵にお金をかけるべきなのか」と疑問を呈す。すべての世帯に100Mbpsの通信環境を用意するというのは現実的ではなく、過疎地などではもう少し遅い回線であっても、確実にインフラがあることが重要との見方を示した。
小池氏は米国政府が打ち出した全米ブロードバンド計画(NBP)を例に出し、「1億世帯に100Mbpsのインフラを提供するというのは、LTEが普及すれば実現できる」とし、むしろネットワークのオープン化が必要だとした。
町田氏はもう1つ、“光の道”が完成した場合の、ユニバーサルサービスのあり方についても決める必要があるとした。現在はすべての加入者が負担する「ユニバーサルサービス料」を使って、過疎地での赤字を埋め、全国誰でも電話サービスができるようにしている。町田氏によると、米国では1人あたりおよそ1.5〜2ドルを負担することで、学校や病院のインターネット整備などをしているといい、日本でもこのような方法がありうるのではないかとした。
これについては、嶋氏も「ソフトもインフラの1つとして考えて欲しい」とし、貧しい人でも教育受けられるようにするなど、インフラだけでなくブロードバンドを活用したコンテンツについても整備が必要との考えを示した。
法制度の改正については、小池氏から「NTTの独占で起きている問題をどう解くか考えるべき」との意見が出されたが、町田氏は「NTTが独占力を乱用して問題になっているケースを関係者に聞いたが、具体的な返答がこない」と反論。NTT西日本が他社の顧客情報を不適切な形で営業活動に利用していた点については「詳しく関係者から話を聞きたい」とした。
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