ドコモのSIMロック解除の影響は「皆無」と断言する4つの理由--iPhoneが解かれたとしても

新機種の本音と発売サイクル

 NTTドコモよりスマートフォン3機種が2月24日、新たに発表された。外資系金融機関にて、リサーチアナリストとして通信セクターを担当している立場からこの発表を考察してみよう。

 いずれの機種も3月中に発売される予定であるため、総務省から2010年6月に公表された「SIMロック解除に関するガイドライン」内で求められている、「平成23年(2011年)度以降新たに発売される端末のうち、対応可能なものからSIMロック解除を実施する」は適用外となる。

 つまり、今回発表の3機種はSIMロック解除対象外端末として発売されるのだが、このこと自体、従前より同社代表取締役社長の山田隆持氏が2010年7月の時点で「2011年4月以降に発売する全機種について、ユーザの要望があれば原則解除する」ことをいち早く表明していた通りであり、当該前言を守りつつ3月中に発売できるものはなるべく多く発売したかった、というのがドコモの本音であろう。

 このことは、発表会の開催方法がややイレギュラーであったことからも読み取ることができるというのが、我々の様な外部から当該業界を調査・分析する者の間では一般的な見方だ。

 端末代金と通信料金を明確に分ける、新販売方式が導入される以前の2007年頃までは「春モデル」(例年1~2月に発表)、「夏モデル」(同5月頃発表)、「冬モデル」(同11月頃発表)と年に少なくとも3回は行われていた新商品発表会が、新販売方式導入による大幅な出荷台数の減少から、「夏モデル」(5月頃発表)、「冬春モデル」(11月頃発表)と年に2回の発表となって以来、昨年1月のXPERIA発表のような単発発表を除いて今回の発表会は珍しい。

 しかも、3月の商戦期を目前に控えた2月末に数週間後には発売される端末発表を行うという、いわば異例の発表会であった様子からも伺える。

 一見すると、ドコモの商品企画・端末調達に柔軟性が出てきたとも見えるが、その一方で、可能な限り3月中に多くの端末を発売することで、あらかじめ排除可能なリスクは排除するドコモの「したたかさ」も垣間見ることが出来たというのが筆者の見方だ。

依然として影響は限定的

 前段はこの程度として、本稿の本題であるSIMロック解除による影響について、2011年1月に寄稿した、「2011年のモバイル業界展望--SIMロック解除における3つの重点」に補足する形で、4月以降、具体的には2011年夏モデルとして発売される端末の影響を、1月1日の寄稿以降に明らかになった事実も踏まえ、再考したい。

 前回寄稿時には、主に以下4点の理由から実質的に影響は無いと論じた。それは、

  1. キャリアの差
    NTTドコモとソフトバンクモバイル(SBM)は「W-CDMA」、KDDIは「CDMA」という通信方式の違い、さらにそれぞれの事業者に割り当てられている周波数の違い、iモード、EZWeb、Yahooケータイというサービスプラットフォーム仕様の差分など、これらを一同に吸収することが可能な端末を各社が開発し、発売することは現実論として無理
  2. LTEと音声呼
    総務省の真の狙いは、各社がLTEを導入する2012年以降の「スマートフォン」だが、これもLTEを導入する周波数帯は各社それぞれに異なる事に加えて、音声呼(音声の発信や着信)はLTE圏内であっても「CSフォールバック機能」により、引き続き現行の3Gを利用する(つまり、音声通話部分におけるネットワークの仕様差が引き続き存在し続ける)
  3. モチベーション
    そもそも、各社とも他社に移行し、そのまま利用することが可能な端末を仕様化して、調達し、販売するモチベーションなど一切無いというのが本音
  4. 法制化されていない
    SIMロック解除の議論の発端となった2007年に策定された「モバイルビジネス活性化プラン」にて、「3.9Gや4Gを中心にSIMロック解除を法制的に担保することについて、2010年の時点で最終的に結論を得る」としながらも、法制化されなかったのは、上述のサービス等の互換性が確保できない課題が存在することから、時期尚早と判断したと想定され、法制化されていないものについて、各社が積極的に実施する理由やモチベーションは無い

というものだが、前回寄稿時と変わらず、本年夏モデル以降の端末でドコモがSIMロック解除可能な端末を出したところで、一切影響は無いというのが筆者の見方だ。前回以降、明らかになった事実を鑑みれば、それが更に強固なものとなる可能性があると考えている。

SBMグループのTDD推進団体設立を読む

 それは、ソフトバンク、中国のチャイナモバイル、インドのバーティエアテル(Bharti Airtel)らのグループによるTDD推進団体「Global TD-LTE Initiative」の設立だ。

 TDD(時分割複信)-LTEについて詳述は省くが、中国が国策として積極的に開発を進めてきたもので、中国最大手の中国移動(チャイナモバイル)は第3世代(3G)携帯電話でTDD系の独自規格「TD-SCDMA」を採用したサービスを2009年に正式に開始しており、その後継に位置づけているものだ。

 チャイナモバイルは今年にもTD-LTEを開始すると見られており、実用化に向けた最終調整段階といったところだ。一方、ソフトバンク傘下のソフトバンクモバイルは、2012年~13年にはLTEを開始する予定なのだが、かねてよりLTEに対しては様子見ムードをうかがわせていたのだが、TD-LTEとLTEの両睨みで、いざと言うときには、どちらにでも行くことができる態勢作りをしているものと推察する。

 中国やインドの普及状況次第ではLTEよりも、TD-LTEを先行させる選択肢は十分にあり得るだろう。もちろん、中国・インドなどと共通化可能な周波数帯の獲得やウィルコムへの2.5Ghz帯免許付与時と異なる技術規格での運用になるため、総務省からの承認を得るなど課題はある。しかし、仮にソフトバンクが一気に舵を切れば、そもそも、SIMロック解除の議論が起こり始めた時点では、同じ技術パスを経るはずと想定された、ドコモとソフトバンクですら、互換性が確保できない可能性すら出てきた。

 1月寄稿時に触れたが、そもそも音声呼は当面現行3Gを利用することになるので、ドコモ(音声:W-CDMA、データ:LTE)、KDDI(音声:CDMA、データ:LTE)、SBM(音声:W-CDMA、データ:TD-LTE)となる可能性があり、3.9G~4Gという世代進化を経ても3社間で互換性が確保できない可能性すら出てきている。

 当然、ソフトバンクにしてみればSIMロック解除による影響を恐れて、TD-LTEという選択肢を検討している訳では無いだろう。中国・インドの加入者数を背景にした、端末調達・基地局設備調達での規模の経済の恩恵を享受できる可能性に加え、LTEへ移行することによってドコモやKDDIの後塵を拝す可能性を排除できるからこそ検討しているのだろうが、結果論としてSIMロック解除の影響を排除できる、この上なく美味しい選択肢なのだ。今回の発表により、TD-LTEに向けた検討の本気度は増しているのではないだろうかと想定する。

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