ダンスを踊る10代の若者やスポーツイベントなどを撮影したホームビデオに混ざって、Bush大統領の追放を米国人に直接訴える、巧妙に作られた9分間の映像がYouTubeに掲載されている。
「米国人民に告ぐ。われわれは自分たちが経験した出来事についてのわれわれの考えをお前たちに伝えたいと思っている」と「Iraq--the truth?」と題する映像のナレーターは語る。このナレーターは自らを、イラクでの米国の活動に反対するグループの代表であると名乗っている。「われわれが耐えてきた狂気に比べれば、お前たちが選んだ新しい皇帝の犯罪的行為を見せることぐらい、別段何ともないだろう」
この映像を誰が制作したか、はっきりしたことは言えない。しかし、驚くべきことに動画共有サイトでこうした政治的映像が増える傾向にあり、この映像もその1つであることは間違いない。YouTube、Metacafe、Ogrish.comといった動画共有サイトの登場でオンライン映像が大衆化されたため、敵対する兵士たちが、それぞれの立場から戦場の現実を動画として公開することが可能になった。
ウェブのおかげで、インターネットにアクセスできる者なら誰でも、国境を意識することなく、全世界に向けてメッセージを発信できる。この「Iraq--the truth?」というプロパガンダ映像は5月に投稿されているが、実際にその映像を見た人たちの数はまだ1万4000人と比較的少数にとどまっている。対照的に、現在YouTubeで最も人気のある「Tila Tequila」と題する映像は、80万回以上もダウンロードされている。
しかし、専門家たちは、こうしたプロパガンダ映像はこれからまだまだ増える可能性があると指摘する。
「敵はこうしたプロパガンダを米国民に直接仕掛けてくる」とカリフォルニア州立大学助教授で「Propaganda Inc.」の著者であるNancy Snow氏は指摘する。「この新しいメディアを彼らが上手く利用していることは、認めざるを得ない。利用している技術は安価なものだが、今はビデオカメラさえ持っていれば誰でも動画を作成して、全世界に配信できてしまう」(Snow氏)
Bush政権の高官もこうした映像の存在に気づいている。Donald Rumsfeld国防長官は8月18日の演説で、「アルカイダやその他のテロリスト集団は、ウェブ上での情報戦争に米国よりも早く適応している」と述べた。
同演説でRumsfeld長官は、「こうしたネットワーク上で行われた戦いはかつてなかった」と外交問題評議会で語ったという。「われわれは現在、電子メール、ブログ、BlackBerry、インスタントメッセージ、デジタルカメラ、インターネットなどの分野で初めての戦いに挑んでいる。こうした分野では、米国政府は、まだまだeBayの安物の日用雑貨店と同じレベルでしかない」(Rumsfeld氏)
プロパガンダとは、公正な情報を提供するのではなく、世論を操作するためにメッセージを仕立て上げることだが、そうしたやり方はウェブでは取り立てて新しいことではない。メールを送信して有権者に政治的哲学の浸透を図るといったことは、インターネット初期の頃から行われてきた。しかし、世論に影響を与えるという観点からすると、テキストや写真などより映像のほうがはるかに感情的なインパクトが大きい、とSnow氏は指摘する。彼女は、かつて米国の外交政策を世界に向けて説明する責任を果たしていた米国情報庁の一員だった。
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