動画アップロードサイトのファンは、アマチュア歌手やビキニ姿で踊る女性、あるいはネズミを食べるムカデなどを撮したビデオクリップが、近いうちに高品位(HD)フォーマットでストリームされることなど期待すべきでない。
映画業界や家電業界はHDフォーマットとHDテレビに賭けているが、その一方でインターネットの回線やビデオをストリーム配信するサーバには、HDビデオを日常的に流せるような余裕はないかもしれない。HDビデオの配信には従来の動画に比べて2倍の帯域幅が必要となる可能性があるからだ。
ただし、YouTube.comのようなサイトにとっては、それが世界の終わりを意味するわけではない。これらの動画サイトでは、ハリウッドのつくる作品を配信することよりも、ユーザーが制作したコンテンツを流すことのほうにより大きな関心を抱いている。一方、「MLB.com」を提供するMajor League Baseballなどの団体にとっては、この問題がジレンマとなっている。MLB.comには、インターネット経由で定期的に試合を観戦する加入者がすでに80万人以上もいる。
一般のインターネット利用者は、当面スポーツやニュースの生中継、YouTubeなどのストリーミングサイトが提供するアマチュア映画を観るのに、やや粒子が粗く時々ぎくしゃくした動きをみせる映像で満足せざるを得ないだろう。現実に、本記事の取材に応じた業界専門家らはみな、現状ではより大容量のHDビデオを家庭にストリーミング配信できるほどの帯域幅がないと述べている。
「HDファイルは容量が大きすぎて、典型的な米国のブロードバンド回線経由では、簡単にストリーミング配信したりダウンロードさせることができない」とJupiter ResearchのJoe Laszlo氏(ブロードバンド担当シニアアナリスト)は言う。「われわれが使っている1.5Mバイトの回線は、音楽用には十分で、また低画質の動画にも耐えられる。しかしHDビデオについてはかなり厳しい・・・HDコンテンツがさほど多く出回ることはないと思う」(Laszlo氏)
Laszlo氏によると、典型的なインターネット回線の帯域幅は2〜3Mbpsだという。しかしHDビデオをストリーミングするには、最低でも5Mbpsが必要だ。また、たとえ帯域幅が拡大したとしても、低画質の描画能力しか備えていないコンピュータでは、HDビデオのリッチなディテールまで表示することはできないかもしれないと、Laszlo氏は付け加えている。
この帯域幅の問題がビジネスチャンスの喪失につながる可能性がある。調査会社IDCは米国時間4月5日に発表した報告書のなかで、ウェブビデオ関連の売上が2010年までに年間17億ドル規模に達するとの予想を示している。この金額は2006年に比べて750%増にあたる。「インターネットでのビデオサービスは、米国ではまさに主流の現象となろうとしている」とIDCはこの報告書のなかで述べている。
HD映像のストリーミング配信に関わる問題は簡単に理解できる。液体が流れているパイプを想像して欲しい。パイプの中には限られたスペースしかない。ブロードバンドをこのパイプにたとえた場合、情報を示すビット列は液体にあたる。ネット経由で流れるビデオの量が多くなると、このパイプのなかもそれだけ多く満たされることになる。とくに、家庭への引き込み部分は帯域幅が狭いため、パイプの目詰まりはいっそう著しい。
この「詰まったパイプ」の問題は部分的に大手通信企業各社に利用されている。これらの企業は、自社のネットワークにある種の階層構造を持ち込み、そこを流れるトラフィックをもっとうまくコントロールできるようにしたいと主張している。他方、インターネット関連企業各社は、すべてのトラフィックが等しく扱われるように確実を期すには、いわゆるネット中立法が必要だと訴えている。
「インターネットの帯域幅が不足していることは否定のしようがない」とItivaの社長Michel Billard氏は言う。同社ではブロードバンド回線の効率向上に取り組んでいる。「オンデマンドでビデオを配信する企業が増え、帯域幅がさらに使われつづけると、回線容量が足りなくなっていくだろう」(Billard氏)
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