網膜の病気が原因で失明した人にようやく光明が差してきた。
世界に2500万人いるとされる失明者の視力を、移植によって回復させるハイテク治療法の研究が進んでいる。これらの移植技術のなかには、数年以内に実用化されるものもある。
これらの研究は、米国やベルギー、日本、オーストラリアなど、各国の大学や政府機関、民間企業などで進められている。
今月末にはフロリダ州フォートローダーデールで「ARVO 2006」が開催されるが、「Association for Research in Vision and Ophthalmology(ARVO)」のこの年次集会には数千人の視力研究者が集まり、これらの取り組みがここで相互に評価されることになる。
南カリフォルニア大学ドヘニー視力研究所の最高科学責任者Gerald Chader氏は、「ものすごい競争が繰り広げられている。一部の基本的な移植方法はもうすぐ実用化されて、かなり普及するだろう」と語っている。
米国で進んでいる研究の1つが、Boston Retinal Implant Projectで、これにはマサチューセッツ工科大学(MIT)が参加している。同グループでは、電気信号を送って脳をごまかす無線網膜補助デバイスを設計している。
同プロジェクトに取り組むエンジニアのLuke Theogarajan氏は、「耳や目は、外界で知覚したものを神経信号--つまり神経を流れる電気パルスを使って、脳とやりとりする。脳はこの電気情報を取得すると、何らかの計算処理を行い、『これは自分の祖母だ』とか『この曲は昨日ラジオで聴いた』などと判断する」と説明している。
この信号は、光受容体である網膜の桿状体と円錐体に外部の光が当たると発せられる。ところが、色素性網膜炎や加齢黄斑変性症などの病気にかかると、光受容体が死滅してしまい、光を電気信号に変換できなくしてしまう。
ただし、脳につながる網膜の神経細胞は元の状態のまま残っている。
「もしこれらの細胞を何らかの形で機能させることができれば、脳は視神経から取得した情報を視覚として処理するだろう。残っている健康なニューロンのレイヤーを電気パルスで刺激すれば、これを模倣できる」(Theogarajan氏)
MITが開発した人口網膜は、厚さ1.2mmの一片の小さな電極板で、目の中に直接埋め込まれる。この人口網膜を埋め込まれた人は、ビデオカメラに接続された眼鏡を着用する。そして、プロセッサが視覚情報を無線信号に変換し、その信号が白眼に装着されたチップに送信されると、このチップが人口網膜の電極と無線で通信し、電流パルスを放出するよう命令を出すという仕組みだ。これらはすべて、その人物がはめているベルトに装着されたバッテリパックから供給される電気で作動する。
ベルギーやオランダの研究者たちもビデオカメラを使った技術の研究に取り組んでいる。
「視覚障害者の人たちに、失った自由や独立性の一部を取り戻させるのが狙いだ。例えば、一人で通りを横断できるようになったり、最終的には大きな活字で印刷された新聞を読めるようになる可能性もある」とTheogarajan氏は語る。しかし同氏は、これらは複雑な作業だと強調する。「われわれの最初の目標は、日常生活をより容易に送れるようにすることであり、端や動作を検知できるようにすることだ」(Theogarajan氏)
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