今のところ、動物に電極を埋め込んだのはBRIPだけだが、他のプロジェクトではさらに踏み込んだ研究が行われている。
ドヘニー視力研究所の主導で行われている研究プロジェクトでは、ボランティアの人々に同様のチップを埋め込み、彼らに光の点滅を検知させたり、複数の物体の位置を確認させ、それらがどのように動くかを説明させたり、さらには大文字のLのような単純な形を認識させることに成功している。
Chader氏によると、埋め込まれたチップの電極の数は16だが、今後その数をさらに増やし、視力の向上を図っていくという。「われわれは複数のシミュレーションを行った。それにより、1人で歩き回ったり、人の顔を認識したり、New York Timesの小さな活字を読む能力を回復するために必要な視力の水準が分かった」(Chader氏)
しかし、Chader氏によると、そのレベルの視力を実現するには、1000の電極とさらに10年の期間を要するという。現在のチップは、より原始的な上に、埋め込むのに6時間に及ぶ外科手術を受ける必要がある。それにも関わらず、同氏の下にはこのチップを試したいという志願者からの要望が殺到している。
目の中に埋め込まれたチップは、皮膚下に埋め込まれたワイヤを介して、耳の後ろに埋め込まれたプロセッサに接続する。「現時点では、多くの配管工事や配線が必要だ」とChader氏は語る。同氏も、最終的に無線システムの導入を目指している。
そのチップは、米エネルギー省、米国立科学財団(NSF)、3つの大学、さらにカリフォルニアに拠点を置く民間企業のSecond Sightが協力して開発しており、およそ5年後に最初のバージョンが発売される予定だ(米食品医薬品局(FDA)の検査が終わるまでに5年かかる。FDAは、医療機器の使用上の安全性を保証する責任を負っている)
シカゴに拠点を置く民間企業のOptobionicsも、自社製品に対するFDAの認可を待っている。同社は、網膜の下に埋め込む単独のシリコンチップを2〜3年以内に発売したい考えだ。
Optobionicsの埋め込み型チップは、直径2mmで人間の毛髪よりも薄く、極小の太陽電池で覆われている。同社の医療担当ディレクター、Jacek Kotowski氏によると、そのチップは入射光からエネルギーを集めるため、配線や外電源は必要ないという。また同チップは、網膜内で活動可能な状態で残存する光受容体に刺激を与え、活動状態を維持するように設計されているため、人工的な画像処理は必要ない。
「このチップを埋め込むことにより、病気の進行を食い止めたり、細胞喪失の進行を遅らせることができればと考えている」とKotowski氏は語る。これまでに30人の患者がチップの埋め込み手術を受けたが、各患者の初期状態によって結果に違いが生じている。一部の患者は、色彩感覚を取り戻した上に、対照の認識力も向上し、視力がおおむね改善した。Kotowski氏によると、5年前にチップの埋め込み手術を受けた患者は、現在も手術前と比較して高い視力を維持しているという。
しかし、Optobionicsのチップは、Theogarajan、Chader両氏の批判を招いた。両氏は同チップの問題点として、光受容体への刺激効果は徐々に薄れること、また、電力を大幅に増強しなければ脳に全く信号が送られなくなること、の2点を挙げた。
Kotowski氏も、同氏率いる研究チームにとって電力の最大化が最重要課題の1つであることを認めている。「われわれのチップは、明るい環境下であれば十分な電力を供給できるだろうが、屋内など、大抵の状況下では、チップから流れる電流は極めて弱くなってしまうだろう。」(同氏)
Chader氏らは、他人の製品を批判しながらも、たとえ自分でなくても、他の誰かが近い将来有用な製品を発表してくれることを強く願っている。
「われわれは、世界中の(視力回復の研究に取り組んでいる)他の人々も応援している」(Chader氏)
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