発展途上国の巨大都市や人里離れた農村地帯に住む何十億という人たちに、安価なコンピュータを提供することから得られるメリットは、いくらでも挙げることができる。
農村の子供たちは地域の学校が閉鎖しても、そのコンピュータを使って授業を受けることができるし、大人たちは生産した農産物の価格を戦略的に設定する方法を学ぶことができる。また、ウガンダでは衛星通信回線とプリンタを備えたワゴン車を使って、子供たちに安価な本を提供している。
エジプトのような一部の国では、ITの普及に伴って中産階級が台頭し、結果として政治的な安定が得られると期待されている。
Advanced Micro Devices(AMD)の調査によると、全世界のインターネット利用者数はおよそ10億人で、全人口65億人のうちの16%に過ぎないという。
まだインターネットを利用していない人々でも買えるような、丈夫で強力かつ安価なマシンを設計することは予想以上に困難だ。インドの廉価版携帯端末「Simputer」は失敗に終わった。ブラジルでは、何年も前から貧困層向けのLinuxPCの開発に取り組んでいるが、まだ成功を収めていない。
「この種の計画を成功させるには、あらゆる人たちが真剣にこの問題を検討する必要がある。そして発展途上の国々では、学校教育の初期の段階でITについて教える必要がある」とGartnerのアナリストLuis Anavitarteは述べている。「しかし、われわれがそれらの機器のコストや機能を調べてみると、実際にはあまりうまくいかないことがわかる」(Anavitarte)
最近では、こうした計画に関する新しいアイデアがいくつか出てきている。以下にそれらの概要と長所、短所を簡単に記す。
Nicholas Negroponteの「100ドルPC」
概要:Nicholas NegroponteとMIT Media Labが開発したこの100ドルマシンは、OSにLinuxを搭載。マシン同士がつくるメッシュネットワークを利用してインターネットに接続できる。このシステムを利用することで、無線/光ファイバ/電話システムが十分に整備されていなくてもウェブにアクセス可能になる。電力の供給については、本体側面に付属する取っ手を回すという、斬新な手法が採り入れられている。さらに自転車もしくは太陽エネルギーによる電力の供給も考えられている。
長所:複数のパートナーが、このコンピュータを支持している。Red Hatがソフトウェアを提供し、台湾のQuantaがマシンを製造、そしてAMDはプロセッサを供給する予定だ。2006年末には、まず500万から1500万台が中国、ブラジル、インド、アルゼンチン、エジプト、ナイジェリア、タイに向けて出荷されることになっている。
短所:低価格を実現するために、このマシンのメーカーはどこかで妥協しなくてはならない。このPCに搭載されるプロセッサは動作速度が500MHzで、またストレージも500Mバイトのフラッシュメモリしかない(ハードディスクは非搭載)。さらに、広く普及しているアプリケーションも付かない。そして、こうしたコスト削減手段を講じても、大量生産で100ドルという価格を実現できるか否かまだ未知数だ。「100ドルというのは、きわめて楽観的な金額だ」と、GartnerのAnavitarteは指摘し、このPCの価格はもっと高くなる可能性が高いと付け加えた。だとすると、各国の政府はこのPCに助成金を出さなくてはならないことになる。残念なことに、この計画を歓迎した各国の大統領らは、まだそれに関する予算計画の概要を示していない。
ハードディスクを積まないコンピュータは過去に何度か登場したが、いずれも処理速度の遅さから失敗に終わっている。画面サイズが小さい点も魅力的とはいえない。また、一部の開発途上国にはインターネットカフェがあり、そこでとりあえずPCを使用することができる。さらに、メッシュネットワークがどの程度機能するかについても議論の余地が残っている。
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