今から10カ月ほど前、Googleは世界で最も大規模な5つの図書館の蔵書をデジタル化し、検索可能にするという計画を発表した。当初、この計画は同社から定期的に出てくる気の利いたアイデアの1つにすぎないと思われた。
しかし、そこには大きな落とし穴があった。これらの書籍の多くは著作権で保護されており、Googleは著作権所有者に対して、図書館にある自分の著作を検索可能にしたくない場合はスキャンの対象からはずすように求めているのだ。
Googleではなく自分たちこそ書籍の閲覧と検索を管理するべきだと主張するいくつかの出版社は、Googleの計画を知って激怒した。そして先日、大手出版社5社がこの計画の差し止めを求めてGoogleの提訴に踏み切った。
弁護士で米国著作権事務局の著作権局長を努めたこともあるRalph Omanは、Googleの計画は「営利目的」であり、したがって著作権違反だと指摘する。
「(明らかな違反とはならない)教育目的というのは見せかけで、Googleにとってこれは金儲けの手段だ」(Oman)
しかし、どの著作権の専門家もGoogleが危ない橋を渡っていると考えているわけではない。実際のところ、今回のケースをめぐっては、法曹界の意見も一致していない。この争いは結局、「Googleが世紀の著作権侵害者になろうとしているのか、それともウェブ検索技術によって無名の書籍にも日の目を見せようとする学問擁護者なのか」という1つの素朴な疑問にたどりつく。
テキサス州ダラスの法律事務所、Thompson & Knightで知的財産を専門にする弁護士のBruce Sostekは、「これは極めて興味深いテストケースだ。今のところ、どちらが優位かははっきりしていない」と述べ、さらに「著者の権利を乗っ取り、書籍をバイナリ化してしまおうという行為は、人々に何らかの動揺を与える問題だと思う」と付け加えた。
この図書館蔵書データ化プロジェクトは、1年前に始まったGoogleの「Print Program」の一部だが、同プログラムでは、世界中の書籍を仮想化/電子目録化し、これらの全文検索対応を可能な限り進めるというものだ。
Print Programは大きく2つに分かれており、1つは出版社の刊行物、そしてもう1つは図書館の蔵書を対象にしたものとなっている。前者の「Google Publisher Program」では、Googleが出版社と協力しながら、書籍を検索可能にすることでその購入を容易にすることに取り組んでいる。Googleによると、検索結果のページには、出版社が望めば広告が掲載され、その売上の大半は出版社に行くという。
一方、これまで2件の訴訟が提起されるなど、Print Programで論争を呼んでいるのが「Print Library Project」だ。こちらのほうは、同社がスタンフォード、ハーバード、オックスフォード、ミシガンの各大学図書館や、ニューヨーク公立図書館の蔵書を対象に、書籍の一部もしくは全部をスキャンしてデジタル化して、これを検索可能にするというものだ。
Googleは、出版社や著作権保有者が辞退の意志を明示的に示さない(オプトアウトしない)限り、図書館が蔵書する著作権で保護された書籍のスキャニング作業を進めるとしている。著作権で保護された書籍は、検索キーワード前後のわずか数行あるいは「断片」など、ごく限られた文章しか表示されない。また、広告はGoogle Library Projectページには表示されない。
それに対し、著作権の消滅した作品は、すべてのページが表示され、書籍全体が閲覧可能になる。ただし、Googleによると、これを印刷したり、ダウンロードすることはできないようになるという。
Googleは8月、同社に辞退を申し入れるための時間を著作権者に与えるべく、図書館の蔵書のスキャニング作業を一時中断した。同社では、スキャニング作業を11月1日に再開する計画だ(ただし7日時点ではまだ再開が確認されていない)。しかし、時間が与えられたかどうかにかかわらず、出版社側はGoogleの態度に気分を損ねている。
「『オプトアウト』させることで、Googleは著作権者側に負担を背負わせている。これは、彼らの著作権を弱めるものだ」(Sostek)
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