典型的なオフィスワーカーは、電話、電子メール、インスタントメッセージなどによって3分毎に仕事を中断させられている。ところが、われわれの頭脳が本当にクリエイティブな状態になるには、集中が途切れない状態で約8分もかかる。
その結果、仕事を円滑に進めるために存在するはずだったデジタルコミュニケーションが、実際には重要な仕事の達成を妨げてしまっていると、ジャーナリストであり「In Praise of Slowness」の著者であるCarl Honoreは述べている。
Honoreは、3分毎に仕事が中断されているとする推定を引用しながら、それでも自分がノートPCや電話を手放すことはないと認めた。ただし、「たとえ良いものであっても、過ぎたるは及ばざるが如しということがある。社会的にみて、今はそういう状態なのだ」と同氏は付け加えた。
ポップアップウィンドウによる新着メールのお知らせといった、仕事を中断する機能を持ったソフトウェアの多くを開発したMicrosoftも、こういった問題があることを認めている。
同社Information Worker部門のバイスプレジデントであるChris Caposselaは、「かつては『ネットに接続しなくてはいけない、接続できないとストレスがたまる』といった具合だった」のに対し、「今やその段階を過ぎた。人々はいつでもどこでも接続しているような状況だ。そうなるとどうなると思う?『接続していることによって、やりかけの仕事を中断されるのは御免だ』と思うようになってきている」と人々の変化を語る。
テクノロジーは長い間、人々をさらに結びつける方向へと進歩してきた。その結果、現在では、オフィスでは電子メール、インスタントメッセージ、電話によって、また社外では携帯電話やBlackBerryによって、社員同士が常に連絡をとれるようになっている。
しかし、こういった流れにあえて逆らおうとする者も一部に出てきている。静かに思索する時間を持ちたいと心底願う人々は、すべてのテクノロジーを遮断するためにローテクな戦略をとるようになってきている。人々のこういった動きにはMicrosoftやその他の企業も気付いており、思考を中断させないですむ仕組みを持ったソフトウェアを開発する方法を探している。
このような状況について、カリフォルニア州サンノゼにあるIBM Almaden Research CenterのDan Russellは、「想像を膨らませたり、熟考したりする自由な時間を持てないということは、クリエイティブではなくなっているということを意味する」と述べている。
Russellは3年前、電子メールの奴隷と化してしまっている自分に気付き、このままではいけないと決心したという。そんな彼はこの頃、送られてきたメッセージにまとめて返信する時間を別途確保している。そして、すべての返信の最後に「スローメール運動に参加しよう!電子メールを読むのは1日2回にしておこう。自分の時間を取り戻し、もう一度自由に想像できるようになろう」と書くようにしている。
彼は、メーラーの設定を変更し、電子メールの着信を即座に知らせる機能をオフにしてしまった。その代わりに1日に2回、未読メッセージをまとめて読むことにしている。このようなやり方は、迅速な返信を望む人には気に入られないかもしれないが、Russellによれば電子メールに割く時間はそれまでの半分の、1日当たり2時間以下に減ったという。
Russell流のやり方はこれだけではない。同氏は携帯電話を車の中に置きっぱなしにし、インスタントメッセージも利用しない。さらに、何にも邪魔されることなく考え事をしたい時には、自分のオフィス以外の場所で休み時間をとるようにしている。実際には、その辺りにある使われていない部屋を見つけてドアを閉めるだけのことだが。
ただし、このような努力をしても、まわりにいる人間が自分に同調してくれない限り効果が薄いということは彼も認めている。スローにいこうといって説得できた人はまだ少なく、「まだほとんど影響を及ぼしていない」と同氏は言う。
この問題は悪化の一途をたどっているようだ。Hewlett-Packard(HP)が今年行った調査によれば、イギリス人の成人のうち62%が、会議中あるいは就業時間後や休暇中にも電子メールをチェックするのを止められないという。そして、オフィスワーカーの半数は電子メールにすぐさま、あるいは1時間以内に返信する必要があると感じており、5人に1人は電子メールや電話に対応するために、仕事上や社交場の集まりから「喜んで」中座するという結果が出ている。
その上、連絡がとれない最後の場所として残っていた飛行機のなかでさえ、ネットワーク化が進んでいる。NasdaqのCEOであるBob Greifeldは、物事を振り返り思索を巡らすためのまとまった時間をとれる場所として、飛行機のなかをあてにしていた。
「飛行機のなかは逃避できる確実な場所だった」と述べるGreifeldだが、しかし最近では機内でブロードバンドのインターネットアクセスサービスを提供する航空会社が増えてきているという。
コミュニケーションの新たな形態はすべて、文化の変化の一部として出現してきた。現代には、インスタントメッセージを利用しない、あるいは電子メールに迅速に返信しない者を良しとしない企業風土が存在する。
「テクノロジーと距離を置こうとする人間が軽蔑されたり、嫌悪感を抱かれるようになってきている」とHonoreは言う。
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