Microsoftでソフトウェア開発者として働くAdam Barrは、ふだん家族と夕食を共にしている。
だが、昔からいつもそうだったというわけではない。1990年代には1週間あたり50〜60時間勤務が普通で、場合によってはプロジェクトの期限に間に合わせるために週70時間勤務が数週間続くこともあった。そのため、Barrは妻や幼い子どもと一緒に食事をとれないことが多かった。
だが現在は、午前8:30から午後5時の勤務が日課になっている。「Microsoftはかなり寛大になった。以前はこのようなことが認められない時期が確かにあった」(Barr)
頻繁に家族と夕食を共にできるようになったというBarrのこの話は、ソフトウェア業界に起こったある変化を浮き彫りにしている。その変化とは、多くの社員が酷使されなくなった、ということだ。米労働省がまとめた調査結果によると、ソフトウェアメーカーの生産従事者--その多くはコンピュータの専門家だ--の平均労働時間は、2001年の週41.4時間から、昨年は週36.4時間まで減少したという。
この労働時間減少の理由としては、ドットコム長者になる魅力が薄れたことや、プログラマが仕事以外の生活に重視し始めたことなどが考えられる。また、一部のソフトウェアメーカーでプロジェクト管理能力が向上したことを理由に挙げる観測筋もいる。いずれにしても、ソフトウェアメーカー各社では、社員が何カ月もの間長時間労働を続けていると生産性が低下する、という結論に達している。
The Atlantic Systems Guildのコンサルタントで、技術業界の人事関連問題に関する著書もあるTom DeMarcoは、「残業の多い企業では、従業員が通常勤務時間中に無駄に費やす時間も多い」と述べ、さらに「残業時間より通常の勤務時間が重視されるようになってきた。その方が生産性が高いからだ」と付け加えた。
複雑なプロジェクトと体力勝負のプログラマ
かなり以前から、ソフトウェア開発には長時間労働がつきものだった。複雑な性格のソフトウェアプロジェクトが多いことや、出荷期限の厳守のためといった理由から、プログラマは頻繁に夜勤を強いられてきた。特に後者の理由は、年末商戦のまとまった売上に依存するビデオゲーム業界で顕著だった。
インターネットバブルの頃は、儲けの大きい新規株式公開を当て込むエンジニアが数多く存在していた。彼らが机の下で寝ていたのは有名な話だ。
プログラマの間で自分がいかにタフかを競う風潮も、こうした長時間労働の一因となっていた。International Game Developers Associationは昨年、コンピュータゲーム業界の悲惨な労働条件の一因として、この風潮を挙げている。
同協会の理事会は声明のなかで、「極端な労働条件を甘んじて受け入れ、業界のなかで『自分の株が上がる』ことを期待し、タフであるかのように虚勢を張った開発者側にも責任がある」と述べていた。
特に、急成長を遂げるコンピュータゲーム業界では、今も長時間労働が当たり前だ。ゲーム開発者協会が昨年実施した先の調査では、5人中3人近くの開発者が週46時間以上の勤務が普通だと回答している。
この調査では、回答者の95%以上が、製品リリース前の過酷な作業期間である「追い込み期間」を会社で経験したと回答している。また回答者の18%以上は、2カ月以上の期間に及ぶ追い込み作業の経験があると回答しており、さらに3分の1以上は、追い込み作業期間中は週65〜80時間働くと答えている。
このような状況が引き金となって、昨年暮れにある種の反乱が起こった。ゲームソフト最大手のElectronic Arts(EA)を批判するブログへの書き込みに、業界の労働時間に関する苦情が殺到したのだ。一部の従業員に対して適切な残業代を支払わなかった疑いで訴えられていたEAは、その後過酷な労働時間の問題を認め、職場環境の改善を約束する覚書を社員に送っている。
コンピュータゲーム業界は、今後も過酷な労働時間の問題に取り組み続けることになるかもしれないが、これは同業界が比較的若いことにも理由がある。業界団体のSoftware and Information Industry Associationでソフトウェアプログラム担当バイスプレジデントを務めるFred Hochは、ソフトウェアベンダー各社がここ数十年で全体的に成熟するなか、各社の社員も勤務時間を減らすようになった、と指摘する。
「ソフトウェア業界は成熟しつつある。この業界が9時から5時の勤務時間に落ち着くことはないと思うが、1日15時間、17時間、20時間勤務というのはなくなりつつある」(Hoch)
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