ネット上には掲示板やブログ、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)など、あらゆる書き込みスペースが存在する。このようなネット上の書き込みはユーザー発信型コンテンツとしてネットに欠かせないメディアとなりつつある。だが、その匿名性ゆえに謂れのない誹謗中傷によって苦しむ人もおり、ネットのオープン性が少なからず疑問を持たれているのも事実だ。
では、実名ならばすべてが解決するのだろうかといえば、現在のところ、ネット上で実名を出したとしても、そもそもそれを実証するシステムがなく、あるSNSでは実名を公開したユーザーがトラブルに巻き込まれた例もある。おそらく、ネット上のコミュニケーションによって起きる事件の数々は、匿名か実名かという議論では解決しないだろう。
ただ、日本のネットを取り巻く状況がこのままの状態で進むことは、おそらくユーザーだけでなく、それを提供する事業者も含め、すべての関係者にとって最善とは言えないはずだ。
そこで求められるのが、「ネットID」という概念である。ネットIDとは、実名・匿名という表層の部分や事業者ごとのレベルではなく、インターネット業界全体でユーザーのプロフィールを定義する仕組みのことで、ネット上で使用する共通IDを規定し、掲示板やブログのコメント欄に適用しようというものだ。ネット上の書き込みをきっかけとして様々な事件が起きている現在、ネットに関わる者として一考すべきテーマだろう。
これについて論じるために、ジャーナリストの佐々木俊尚氏、弁護士の小倉秀夫氏、独立行政法人産業技術総合研究所の高木浩光氏、ゼロスタートコミュニケーションズ専務取締役の伊地知晋一氏が、ネット上の共通IDの是非をテーマに座談会を開いた。その様子を3回にわたってビデオと共にレポートする。
座談会ではまず、ネット関係の被害者と日々向かい合っている弁護士の小倉氏がこのネットIDの必要性を強く訴えた。
小倉:われわれネット系の事件を扱う弁護士は誹謗中傷を受けた被害者から相談を受けていますが、実際問題として言うと、最近は匿名プロキシサーバ経由で投稿する例が多いため、請求を断念することもある。人の権利を侵害した者をたどるにあたっては、IPアドレスの次元から捜索するのではなくて、もう少しユーザーにとって手前の段階、つまりブログ事業者や掲示板事業者側で投稿者を把握しておく必要がある。
ブログ主の住所と氏名は把握できているわけですが、コメントについてはそこまでできていない。
だから、ミニマムでいけば、各ブログあるいは掲示板サービスごとに、それぞれIDを発行して、そのIDを発行するにあたっては住所と氏名を確認するという手続きをとっておけばいいのではないか。
ただ、そこでユーザ側の立場では、いろいろなブログがいろいろな事業者のサービスを使って開設されているという現状で、ブログ事業者ごとに新たにIDを取らなければならないというのも大変な話です。それならば複数のブログ事業者の間でIDを共通して利用できるようになれば、1回の登録で提携ブログ事業者のブログサービスに、そのIDを使ってコメントが投稿できるということになる。
法律としては、その事業者のレベルで氏名住所を把握して発信者情報を開示すれば、プロバイダ責任法上の免責規定が受けられるようにする。あとは自分のサービスは匿名性が大事なので住所氏名等のデータを取らないけれども、その代わりに随時監視しておかしな投稿があればすぐに削除するという方針をとるもよし、あるいは別のサービスは匿名による発信性が大事なので、違法な書き込みがなされた場合にはその責任は全部事業者がとるという方針でも構わない。
高木氏も小倉氏とは目的は異なるもののネットIDの必要性は認識しているという。
高木:私が思うに、ネット上で議論するときには、匿名なら匿名、顕名なら顕名というように、顕名・匿名のレベルが同じぐらいで合っていないと正常にいかないと思うんです。そういう意味で、今はウェブに実名空間がないと思いますので、それを作るという意味で、事業者を超えたIDの枠組みは望まれていると思います。
特定事業者内ではいろいろあります。例えば、はてなの世界では、これははてなのコミュニティーが好きな人たちだけだとは思いますが、はてなIDで――実名と結び付いているかどうかはともかくとして――いろいろな機能を使って議論をしたり、トラックバックしたり、はてなブックマークコメントを書いたりということが行われているわけです。
それはある意味、うまく議論の場ができていると思いますが、いかんせん特定事業者内に閉じてしまっていますので、アーキテクチャ上よろしくない。そのため事業者をまたがったIDは望まれていると思います。OpenIDがちょうどそういう用途に使えると思っています。
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