Microsoftの保有する235件の特許をオープンソースソフトウェア業界が侵害しているとする同社の発言によって難しい問題が浮上し、注目を集めている。特許侵害に関して、企業は自らをどこまで積極的に取り締まるべきなのだろうか。
Microsoftによると、今回同社が、具体的にどの特許かということでなく、235件という侵害されているとする特許の件数を示したのは、2006年11月に発表したLinuxベンダーのNovellとの提携と同じような知的財産ライセンス供与契約を打ち出すための交渉の場に、オープンソース企業を導くためだという。しかし今回の発言は、オープンソースソフトウェア企業に対し、自社がMicrosoftのどの特許を侵害しているかを見つけ出して交渉の席に着くことを暗に求めているのだと業界の専門家たちは指摘し、こうしたMicrosoftによる暗黙の要求は、しょせん非現実的なものだと述べている。
一般的に、米国における特許の件数、多様さ、不明確さを考慮すると、ソフトウェア特許に関して侵害の可能性を調査することは現実的とは言えない。そればかりでなく、もし特許侵害があると考えた場合でも、特許保有者が接触してくるまで待つというMicrosoft自身の方針とも食い違う。
実際、特許侵害の可能性を調査することで、企業が財務的に困難な状態になる可能性もある。訴訟で特許侵害が認められたとして、訴えられた企業や個人が特許侵害の可能性について認知していた場合は、認知していなかった場合の侵害に比べて、支払わなければならない損害賠償は3倍にもなる。
技術関連のロビー団体Computer and Communications Industry Association(CCIA)の上級顧問を務めるMatthew Schruers氏は、「故意の特許侵害に対する懸念が大きいため、企業がエンジニアに特許を調査しないよう指導する場合も多い」と述べている。故意かどうかという問題、特許の調査にかかる費用と実際にそれらを理解することの難しさから、「多くのソフトウェアアプリケーション開発者は、特許の調査を徹底的に実施したと胸を張って言えない状況になっている」(CCIAは、Microsoftを同団体の顧客企業の1つと見ているが、オープンソースソフトウェアが235件の同社特許を侵害しているという、米国時間5月14日の同社の発言については、「とても厄介なものだ」と冷ややかに見ている)
Microsoftは、他社の保有する特許技術を利用するために、この3年間に14億ドルを支払っている。しかし、他社からライセンス供与を受ける際の同社の姿勢は受動的なものだ。
「ある企業の保有する知的財産をMicrosoftが使用していると考えるなら、その企業は当社に接触してくるべきだ」と、Microsoftは声明の中で述べている。Red Hatを始めとする企業やLinuxカーネルの開発を率いるLinus Torvalds氏など、特定の相手に特許侵害について通知をしたのかという質問に対し、Microsoftは15日には回答しなかった。
Microsoftは、同社が保有する42件の特許をLinuxカーネルが侵害していると説明している。しかし、自分自身が侵害をしているかどうか調査することを拒否する人たちがいて、Torvalds氏もその1人だ。
「エンジニアたちが自分の特許だけを読み、他者の特許に目を通すべきでない理由はいくつかある。これは『現実から逃避する』という問題ではなく、時間を無駄にしないという非常に実際的な問題だ」と、Torvalds氏は述べている。
1つには、他の特許を調査せずに技術を開発すれば、開発者は該当の技術を自分で開発したと、正直に主張できるということがある。自明の技術でないこと、という要件を問題の特許が満たしていないことを示すのにそれが役に立つと、Torvalds氏は説明する。また、そもそも技術者たちが特許を十分に理解できるとも思えない。「そばに特許専門の弁護士がついてでもいなければ、特許用語はたいてい理解できるものではない」
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