連載第3回目を担当させていただきます、アジャイルメディア・ネットワークの水口です。連載の1回目はソーシャルメディアのトレンド、2回目はマスとソーシャルメディアについてお話ししましたが、3回目はもう少し身近なテーマに目を向けてみたいと思います。
早速ですが、みなさんは「信頼されるクチコミ」と聞いて、どのようなクチコミを想像しますか?
ここ数年、ステルスマーケティングという言葉をよく耳にするようになりましたが、ソーシャルメディアが今のように当たり前になる前から、いわゆる炎上事件やそれに関係する出来事は発生していました。今回は2つの事例を通して、改めて「信頼されるクチコミ」とは何かを考えていきたいと思いますので、おつきあいください。
1つ目の事例は、2006年に開設されたブログのケースです。アメリカに拠点を置くWal Mart(ウォルマート)は、企業のイメージアップのため、2005年にPRプログラムとして、NPO「Working Families for Wal-Mart(WFWM)」を設立しました。
そこに開設されたブログは、ある夫婦がウォルマートの各店舗で提供しているRV車のためのキャンペーン「RVフレンドリー」を利用しながら、ラスベガスからジョージアまでキャンピングカーで横断するという旅行記でした。夫婦は旅行中に出会ったウォルマート社員の話や、社員が自分たちに施してくれた親切な対応などを、そのブログに書き綴っていきました。
そんなブログがFake Blogと呼ばれるに至った原因はというと、創り上げられた偽りのブログだったからです。
なんと、キャンピングカーや旅行にかかる費用、さらにはブログの原稿料まで、すべての資金がWFWMから出ていたことが発覚。そして、このNPOを設立した大手PR会社のエデルマンがこれらを仕組んでいたことが「Business Week」誌によって報道されたのです。
そして、このブログの登場人物である夫婦が、実は夫婦ではなかったことでさらなる炎上を招きました。
夫婦として登場していた2人の本当のプロフィールは「ワシントンポスト」紙に所属している25歳のカメラマンとフリーライターで、フリーライターはエデルマンに勤める社員の妹であり、その兄はこの企画の発案者だったのです。
以上のことが開設から約半年後に発覚し炎上。ブログに批難が相次ぐ中、謝罪文の掲載までに日数を要したこともあり、火に油を注ぐ結果になったのは言うまでもありません。もちろん、現在このブログは削除されています。
この事例の場合、偽ったことだけでも十分に読者や生活者たちを裏切ったわけですが、ほかにも大きな問題点がありました。
それは、この企画を発案したエデルマンがブログマーケティングの先駆けとして知られており、今回のPRプログラムの指揮をしていた同社CEOであるRichard Edelman(リチャード・エデルマン)氏は、WOMMA(米国クチコミマーケティング協会)の倫理規定作成に関与していたからです。
WOMMAは企業がブログの内容に関与している時には、それをきちんと明示し、透明性を高めることが重要であることを説いてきた組織です。その中核を担っていたエデルマン氏が起こした事態だからこそ、問題はさらに大きくなったというわけです。
アメリカではこの出来事をきっかけに、政府機関が動きました。
Federal Trade Commission(FTC:米連邦取引委員会)は、人が推奨する形の広告に関するガイドラインを修正し、クチコミ広告は「広告」であると明示しなければいけないことにしたのです。このガイドラインの改訂は1980年以来29年ぶりで、2009年12月1日から有効となりました。それだけ大きな出来事だったというわけです。
このガイドラインでは、生活者や有名人が商品やサービスの体験を語る場合、実際に体験していない時は、それを明示する必要があるとされています。
さらに、ガイドラインに抵触した場合は、1件につき最高1万1000ドルの罰則金が科せられるそうです。
クチコミに関する透明性を提唱していた組織の中核人物が、クチコミを使って世論を操作しようとした。それも、関係性を明示せず、偽って創り上げたクチコミに対して、謝罪さえ後手後手に回ってしまった。そういったことで政府までも法改訂に動いたこの事例を見ると、誠実なこととは何か、不誠実なこととは何かが見えてくるかもしれません。
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