いままさに真価を発揮できるモバイルメディア

 2006年秋から冬にかけてはキャリアを変えても番号の変更が不要になるナンバーポータビリティがスタートし、2007年4月より携帯電話のGPS標準搭載が実施される。また、今夏から、NTTドコモのHSDPAを皮切りに、現在の10倍の速度が体感できるという3.5G時代に突入する。ソフトバンクモバイルの動向など、モバイル業界はいま非常に熱い。これに伴って、今後の広告ビジネスもターニングポイントを迎えている。

 New Industry Leaders Summit(NILS)では「モバイルメディアと広告ビジネス」と題し、モバイルポータル、モバイル検索を軸としたセッションが開催された。登壇したのは、モバイルコンテンツ制作で知名度の高いウェブドゥジャパン メディアビジネス本部 取締役本部長 古瀬祥一氏、メディア広告や「SeafTyy」という携帯サイト検索エンジンを提供しているシーエー・モバイル 専務取締役 小野裕史氏、「F★ROUTE」という独自のポータルサイトを提供しているビットレイティングス 代表取締役 佐藤崇氏、ヤフーモバイル事業部 事業部長 松本真尚氏の4名。モデレーターはシーネットネットワークスジャパン 編集長 西田隆一が務めた。

現在のモバイル広告はメールが主流

 2004年では一般サイトと公式サイトは半々のアクセス数であった。それが2005年は一般サイトが7、公式サイトが3という割合に変化している。携帯電話のコミュニケーションツールという特性から、掲示板やチャットなどを含めたコミュニケーションサービスを提供しているサイトの人気が高い。

シーエー・モバイル 専務取締役 小野裕史氏 シーエー・モバイル 専務取締役 小野裕史氏

 その中でどのような広告商品を扱っているのかというモデレーター西田の質問に対し、メール広告が一番多いとシーエー・モバイルの小野氏が答えた。

「メールマガジンに宣伝文を載せて、広告を打ち出していくというのが多いと思います。中には属性を登録してもらい、たとえば『20代の女性だけ』というように限定してメール広告を出すような形式も多くみられます」(小野氏)

 クリック型広告も大きい規模があり、個人の趣味としてやっているモバイルサイトのオーナーはクリック型を使っている割合が多いという。

 メール広告が主流ではあるが、迷惑メールの多さからアドレスを変更してしまうユーザーがたくさんいるという問題点もあると、ヤフーの松本氏は指摘する。

ヤフー モバイル事業部 事業部長 松本真尚氏 ヤフー モバイル事業部 事業部長 松本真尚氏

「メール広告は重要なマーケットとは思っていますが、ヤフー自体はPCも含めてメールは得意ではありません。一般サイトでは今のところオーバーチュアのスポンサードサーチ、あとはバナーといった旧態依然の方法がメインとなっています」(松本氏)

 広告主については金融業界一色だったところへ、人材系のクライアントが増え、さらに飲料や化粧品などの消費財も非常に増えてきている。それに伴い、今まではなかったタイアップやインプレッション広告が登場した。これは効果を見るためではなく、イメージ広告として取り扱っているのが特徴だ。イメージ広告が今後モバイルの世界で受け入れられていくかというと、まだこれからで、ようやく出てきたといった感があると小野氏は見ている。

モバイルサイトへは検索で

ウェブドゥジャパン メディアビジネス本部 取締役本部長 古瀬祥一氏 ウェブドゥジャパン メディアビジネス本部 取締役本部長 古瀬祥一氏

 一般サイトのアクセス数が増加するにつれ、サイトへの到達方法として検索が今後重要になってくる。ウェブドゥジャパンのCROOZ! は、完全自社開発のロボット型検索エンジンだ。現在、多くのサイトへこのエンジンを提供している。

「モバイルは依然として口コミでサイトに到達することが主流になっています。数多く提供するというのには、どこでも検索できるようにするという目的があります」(ウェブドゥジャパン 古瀬氏)

 また、シーエー・モバイルでは人力での登録をメインとし、一部でロボット型検索を開始。そして、ビットレイティングスが提供するポータルサイトでは検索がメインとなっている。

ビットレイティングス 代表取締役 佐藤崇氏 ビットレイティングス 代表取締役 佐藤崇氏

「ビットレイティングスでは最初、検索させないポータルを作っていました。それがユーザーから検索したいというニーズが高まってきたので現在の形になりました」(ビットレイティングス 佐藤氏)

 さらに、モバイル検索は屋外で使うというよりもテレビを見ながらなど、「室内で使われることが多いという特徴があります」と松本氏は言う。古瀬氏も「テレビを見ながら話題性のあるものを瞬間的に検索することもありますね」とした。

 以前はコミュニケーションツールとしての携帯電話という捕らえ方が多く、検索もキーワード自体が「着メロ」など、携帯電話オリジナルのものだった。しかし、最近ではキーワードがPCでの検索に近づいてきているようだ。

人材、ECが増加する検索連動型広告

 このように検索が広がるなか、広告としては検索キーワード連動型広告が提供されている。広告主は人材系やECが多いと古瀬氏、小野氏が明らかにした。

「PCでリスティング広告を出していて、モバイルで初めて広告を出稿するとき、リスティング広告を選ぶという傾向もあります」(小野氏)

 GPSを連動させ、検索も含めてその周辺に広告も出すという方法は、メディアとして効果があるのではないかという西田の質問に対して、PCとモバイルの時間軸の違いが取り上げられた。

 PCと違い、モバイルは「今すぐに、ここで何かをしたい」というニーズがある。時間軸を基本とした検索に対して適した結果を返せれば、モバイルユーザー向けのサービスになるのではないかというのが小野氏の考えだ。

公式サイトの枠を外してインターネット化へ

 現状では、NTTドコモ、au、Yahoo!モバイルの3系で、ヤフーは公式サイトのポータルとして確立しているが、松本氏は公式サイトの枠を外したいと考えている。ソフトバンクと共に携帯電話のインターネット化を進めていきたいとの意向だ。

 それに対し佐藤氏は、「インターネット化が進めば勝手サイトと呼ばれる一般サイトの世界も広がり、ポータルサイトにもユーザーが集まるようになり、ひいては広告市場が拡大していく」とポジティブに捉えていると語った。

 ボーダフォン買収によるソフトバンクモバイルの本格展開や、新規事業者の参入など、競争が一段と激化するのは必至だが、モバイルのGPSの標準搭載やインターネット化などが実現することで、モバイルメディア、広告ビジネスはさらに新たなステージへと展開する可能性を秘めている。

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