2005年7月29日に総務省の情報通信審議会がデジタル放送の普及に向けて、電波だけでなくインターネットなどを活用した地上波テレビ放送の再送信を活用すべきだと発表した。放送法の定めるさまざまな制約が徐々に緩和される中、今後のブロードバンド放送の新たな展開への期待が高まってきた。
また、モバイルマルチメディア市場は、高速データネットワークが標準化されると共に、爆発的な勢いで成長しつつある。
New Industry Leaders Summit(NILS)では、「モバイルマルチメディアとブロードバンド放送市場の展望」と題して、ヤフー モバイル事業部 事業部長 松本真尚氏と、USEN 取締役副社長 加茂正治氏の両者がセッションに登壇し、今後のブロードバンド放送市場の動向ならびにモバイルマルチメディアへの戦略を語った。モデレーターは、モバイル技術を基盤としたサービスのプラットフォームを提供しているKLabの代表取締役社長 真田哲弥氏が務めた。
USENは2005年4月25日に事業の大きな柱としてメディアコンテンツ事業、「GyaO」を立ち上げ、「インターネット上のテレビ放送局」として会員制の無料動画配信を行ってきた。テレビ放送と同様、広告収入での運営だ。2006年6月の登録ユーザー数は1024万1683人と1000万人を突破した。月次10億円ほどの売り上げがあれば事業として黒字になるが、現状では6〜7億円というペースだという。
「広告業界を含め、ブロードバンド放送という新しいメディアで今後どのような広告手法を使っていくか、どう予算をつけていくかというところで少し時間がかかっている状態だ。しかし、本年度末には広告業界の認識、実際の広告主の予算の付け方のバランスがとれて、黒字になっていくだろう」(USEN 加茂氏)
PC版では明確にビジョンを描ける一方で、2006年4月25日にスタートした「モバイルGyaO」では、PC版のような確信は持っていないのが現状だと明かした。会員制の問題、料金、広告表現など、PCと比較してモバイルには制限が多い。正式サービスではあるが、現状ではまだ実験的段階だという。
モバイルGyaOをスタートさせたそもそもの目的は、PC上で利用しているユーザーのサポートとPC版GyaOでは捕捉できないユーザーの獲得であった。
「現在、25歳以下と以上の人では、行動特性がずいぶん違い、25歳以下では、モバイルに費やす時間が非常に長いことがGyaOの調査で明らかになっている。ケータイを30分以上利用しているのは全体で見れば10%ほど。それが25歳以下になるといきなり70%にも達する」(加茂氏)
この25歳以下のユーザー層に消費する力が付いてきたとき、PCだけでは不足となってモバイルによるサービスが必要となる。制限の多い中、今はどのような位置づけにすべきか逡巡しながら事業を展開しているのだ。
GyaOが動画配信に注力しているのに対し、ヤフーでは「Yahoo!動画」というサービスを打ち出している。しかし、モデレーターの真田氏はヤフーに対して「積極的に力を入れているようには見えない」と指摘し、その意図を訊ねた。
ヤフーの松本氏は、動画ビジネスに対して多少の悩みを抱えており、デバイスとの距離感について模索しているという。
「携帯電話、パソコン、テレビには、それぞれ異なった距離感がある。GyaOさんが集めているコンテンツはテレビの距離に向いているものが多い。これをパソコンの距離で提供して何をマネタイズしていくのか。ヤフーではPCを含めて今後の動画コンテンツをどう進化させていくかを模索しているところだ」(ヤフー 松本氏)
松本氏の発言を受け、加茂氏はテレビとGyaOの違いについて、視聴率を例に挙げてGyaOがより自由度の高いメディアになっていると説明した。
テレビ放送は、基本的にリビングに置かれていることを前提に作られている。その点で視聴率がコンテンツを制作するうえで大きなポイントとなっている。24時間365日というキャパシティーで、その有限時間を割って単価を掛けていく。すなわち視聴率×視聴率当たりの広告費という仕組みだ。これに対しGyaOは、時間に制限をかけていないので、視聴数が稼げなくても低コストにすることで収益を引き出せる。
「コンテンツを制作するときには、1時間1視聴率当たり10円のコストを目安にしています。日本全国で3万人しか視聴されなければ30万円で作ればいい。1000万人なら1000万かければいいというわけです」(加茂氏)
これにより、視聴率最重視のテレビでは実現できないニッチな放送が可能となり、一部で根強い人気のあるコンテンツを開拓することができる。これが現在のGyaOの大きな特徴となっているのだ。
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