ケータイで女性がハマる「リアル系乙女ゲーム」とは何か

 今や4000億円規模に達したモバイルコンテンツ市場。しかし、その動向についてメディアで取り上げられる機会は少なく、かつてのケータイ小説のように「ケータイユーザーの中では人気だが、外部からは全く知られていない」というものは数多く存在する。

 この連載では、そういったモバイルコンテンツやサービスに焦点を当て、現状を紹介するとともに、ヒットの秘訣などを探っていく。

ホストクラブを舞台にしたゲームが人気

 第1回の今回は、ケータイで人気を博しているコンテンツの代表の1つ、「乙女ゲーム」を取り上げる。乙女ゲームは女性向けの恋愛ゲームの1種で、コナミの「ときめきメモリアル Girl's Side」や、コーエーのネオロマンスシリーズなど、家庭用ゲーム機でもヒットした作品がいくつかある。

 だが携帯電話で人気を博している乙女ゲームは、それらとは傾向がかなり異なっている。従来の乙女ゲームは、どちらかというと現実からやや離れた世界を舞台とした、ファンタジー要素が強いものが主流であった。だが携帯電話向けの乙女ゲームでは、「ホストクラブ」「渋谷のクラブ」といったように、リアルな世界を舞台としたものが受けているのだ。

 こうした「リアル系乙女ゲーム」は、従来のオタク層だけでなく、一般的な女性ユーザーにも受け入れられたことでヒットにつながった。人気を受けて2007年8月、NTTドコモはiモードメニューに「恋愛ゲーム」のカテゴリを設けた。その上位10コンテンツのうち7つを乙女ゲームが占めている(2008年12月時点)。

女性を分析したら乙女ゲームが生まれた

恋人はNo.1ホスト リアル系乙女ゲームのはしりとなった、ホストクラブを舞台とした恋愛ゲーム「恋人はNo.1ホスト」

 リアル系乙女ゲームの火付け役となったのは、ボルテージが運営する「恋人はNo.1ホスト」だ。月額315円のこのゲームは、高級ホストクラブにVIPとして招かれた主人公が、「オレ様タイプ」「クール」「熱血漢」といった個性溢れるホスト達とやりとりをしながら、さまざまなストーリーを楽しむというもの。

 システムはベーシックなアドベンチャーゲームの形式で、ユーザーが選んだ行動によって好みのホストと恋に落ちたり、そのホストをナンバーワンに育て上げたりできる。

 ボルテージは携帯電話向けコンテンツプロバイダー(CP)の1つで、元々女性向けコンテンツに強みを持っていた。それまでにも着うた、小説、占い、デコメ、コミックなど、若い女性に向けたさまざまなジャンルのコンテンツを配信していた。

恋人はキャプテン
リゾート甘い誘惑 「恋人はキャプテン」(上)「リゾート甘い誘惑」(下)など、さまざまな恋愛ゲームを揃え、幅広い層の女性を獲得している

 だが、2006年に配信を開始した「恋人はNo.1ホスト」がヒットして以降、この分野に力を注ぐようになった。現在では対象ジャンルを広げ、渋谷のクラブを舞台とした「渋谷ラブトリップ」、学園を舞台とした「恋愛上等★イケメン学園」「禁断★放課後の恋人」、キャバクラを舞台とした「キャバ嬢★秘密の恋」、芸能界を舞台とした「ダーリンは芸能人」「恋人はミュージシャン」など、計18種類の乙女ゲームを月額課金で展開している。なお、ボルテージではこれらのゲームについて、乙女ゲームという表現は使わず「恋人ゲーム」と呼んでいる。

 先に紹介したiモードメニューの「恋愛ゲーム」カテゴリでも、同社のゲームが上位4位を独占する(2008年12月時点)など人気は高く、全ゲームで合計数十万の会員を獲得しているという。会社全体の売上高を見ても、乙女ゲームを積極展開する前の2006年6月期には売上高が13億4000万円だったが、2年後の2008年6月期には28億1000円へと倍増するという急成長を見せている。

 ボルテージでは過去に、男性向けのゲームをいくつか手がけたことがあった。だが、ゲーム事業を展開したくて乙女ゲームを始めたわけではないと、同社の執行役員である北島健太郎氏は話す。元々「ゲームありき」で企画を進めていた訳ではなく、これまで女性向けに提供していた、ケータイ小説やコミックなどドラマ性を持つコンテンツで培ったノウハウを生かして、新しい基軸のものを作ることを考えていたに過ぎなかったというのだ。

 北島氏らは、純粋に女性に向けたゲームがあまり存在しないことに着目。当時流行していたケータイ小説にヒントを得て、ストーリーに絵を付けることでドラマ性を持たせるという、現在の乙女ゲームのスタイルを生みだした。

 舞台にホストクラブというリアルな場を選んだのも、同社が運営する占いサイトで人気の高い項目や、小説サイトで多く読まれるストーリーなどから女性の興味、関心を分析し、さらに当時テレビなどでホストやホストクラブが流行していたことから、それを取り入れたのだという。「そうした(女性の行動を分析した)結果からファンタジーは出てこなかった」(北島氏)という話からも、一般的なゲームの発想とは大きく異なることが理解できるだろう。

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