ストリーミングで体得した成功の鍵は3つの要素と逆ユビキタス - (page 2)

インタビュー:西田隆一(編集部)
文:別井貴志(編集部)
2005年09月15日 14時43分

--ストリーミングビジネスの状況が変わったと感じた分岐点はどこだったのでしょうか

 エポックメイキング的に明らかに状況が変わったのは、初めて有料課金した中山美穂の中野サンプラザでのライブコンサート中継だった。1998年の8月8日のこと。課金方法はビットキャッシュで、中山美穂のビットキャッシュカードを1000円で販売していた。20kbpsと40kbpsで配信し、テレホーダイタイムの夜11時から見てくださいとオンデマンド形式で行った。

 あとは、日食中継のアクセスが多かった。インドネシアの日食中継を一番最初にやった。落語をいまでいうポッドキャストでやるなど、企画勝負だったのでありとあらゆる思いつくことは挑戦した。

 ビジネス系でがらっと変わったのは、金融ビッグバンと呼ばれるオンライン証券会社が認められた1999年10月だと思う。あのときに、3大証券の野村、日興、大和が全部顧客になってくれた。金融商品の説明をビデオや音声でやって、それからIR(投資家向け広報)などのビジネス系が一気に動いた。この金融ビッグバンが、もっともビジネス系でストリーミングが使われる転機になった。

--具体的にはどういうことをやったのでしょう

 金融商品の説明などは米国でもあったが、パワーポイントのスライドと講演者の声が連動して流れるというかたちはJストリームとマイクロソフトが一緒に作った。このやり方はいまや世界中で標準的になっているけど最初にあみ出した。

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 ビル・ゲイツなどの講演はみんな行きたがる。そこで、セミナーの要素で基本的なデータは、暗い中で映し出されるスライド資料とスピーカーの声だと考えた。それならば、この2つだけを配信してあとは連動させればいい。講演者はあまり動かないのだから、スライドをメインにして映像部分は小さく表示させればデータ量も少ないだろうと思った。

 もちろん、いろいろ実験もやった。スピーカーの声とスライドだけではどうかということで、画像は講演者の写真をJPEGで貼り付けておいた。すると、自分に語りかけているような感じがしないので、見ていて非常につまらい。だから、4秒に1コマでもいいから画像を動かしてみると、ちゃんとみんな見てくれるようになった。また、回線の帯域が十分に確保できないときは、ビデオコーデックよりも音声コーデックを優先するという試みもやった。その結果、声だけでも聞こえた方がみてくれることがわかった。こうした見せ方のコツは、数々の実験の積み重ねで蓄積していった。

 このように世界に先駆けていろいろと方法を構築したが、いまでは動画とテキスト、アニメーションなどがすべてFlashのうえで動き、そっちのほうが楽になってしまったのでFlashが主流になりつつあるけど。

 まあ、そういうわけで、商品説明が2000年頃に登場して使われはじまった。PC関係やオンライン証券の金融関連で使われはじめて、いまもあらゆるところでパワーポイント連動のストリーミングコンテンツが使われている。

--ビジネス系が開花したことで、Jストリームのビジネスも軌道に乗ってきたわけですね

 アイドル系は打ち上げ花火みないなもので、今月は売り上げあるが、来月はまったくないといった感じ。これに対して、ビジネス系は基本的に長期契約なのでJストリームの収益も安定した。その仕掛けとして、当初はアイドルなど目立つものを場合によっては無料で手がけてきたわけだが、「うちの会社のセミナーは人気があるけどおたくのシステムで配信できるの?」なんて言われたときに、「いや中山美穂でも耐えましたから大丈夫です」と答えれば「そうか! なら大丈夫だ」というやりとりができた。

--ビジネス系では、商品説明の他にどのように利用されますか

 商品説明の他には、プロモーションやトレーニングでの利用価値が高い。「教育」と言った場合に、僕はEラーニングとEトレーニングの2つがあると思っていて、Eラーニングの市場はないと考えている。

 トレーニングというのは、やらないと次に進まない。たとえば、僕が失業して収入がなくなり、食べていくためにハンバーガーショップへ明日からアルバイトとして出勤しなければならないとする。そして、「1分間にハンバーガーを3枚作らないと首だ」と言われ、そのときにそれをトレーニングするコンテンツがあって、「それを見ておけ」と言われれば絶対に見る。なぜかといえば、やらないと仕事に就けずに収入も得られないから。

 それが、Eラーニングだとどうしても自発的にやらなければならないので、例えば家庭で英会話のEラーニングコンテンツをやっているときに、宅急便の人が来れば途中でその対応にでてしまい、なかな集中して真剣にはできなだろうし、実にもならないと思っている。そのため、Eラーニングはよっぽどうまい仕掛けを考えないといけないが、トレーニングはやらないと次ができないという強制さがあり、それにはネットは非常に向いている。

--これも具体例を教えてもらえますか

 動画配信に使われてうまくいったケースは、PL法(製造物責任法)ができたときに、ネットワーク機器を扱っている会社がやったケースだ。機器に不具合が出た場合に、メーカーはディストリビューター向けに通常はサポートデスクなどでお詫びや対応などをする。そこで、ビデオを撮影して説明者がまずお詫びをした後で、不具合の機器の特定方法や直し方などを説明するということをやった。

 例を挙げれば、不具合の対象製品の品番がA123だった場合、「その品番は機器の裏側のここの赤い部分に書いてあります」といった具合に実物を見せながら説明する。「直すときには裏ぶたを開けるときには、こことここのねじを回してこのようにすると開けられます」と。実際に見せながら説明すると理解されやすい。FAXなどを送って文章で説明しても伝わらない。こうして作ったビデオファイルをダウンロードできるようにして、全国のディストリビューターに配布し、顧客のところに出向かせれば確実に不具合を解消できる。

 また、もう1つ仕掛けをした。きちんと実行するために、ディストリビューターごとにIDとパスワードをふって、メーカー側はアクセスログをとった。そうすればメーカー側は、もし何かあった場合に「うちはきちんと対処したし教育もした。それを実行しなかったのはディストリビューターが悪い」と言える。そういう仕組みまであると、利用してもらえる。

 つまり、ストリーミング映像を配信するだけならば、技術さえあれば誰にでもできるが、運用とは何をどこに向けてどのように使ったら効果的かを考え出し、啓蒙することが重要なわけだ。この啓蒙活動が僕のこれまでの仕事だったと言っても過言ではない。

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