チーム総クリエイティブ視点の必要性--コミュニケーションのカギはクロスメディア戦略

Webマーケティングガイド2007年11月09日 13時00分

 「今回の新商品には、厳密には競合はいないんです。我々はこの商品で、市場に新しい価値観を提案していきたいと考えています」。

 ここ最近、クライアントから新商品(新サービス)の広告展開に関するオリエンを頂く際に、このような構想をお話頂く事が多い。

 「厳密には」というところが少しわかりづらいが、クライアントが売り出したい新商品はまったく新しい分野のものではなく、製品・サービスとしてはすでに市場に存在しているものだ。つまりこうしたクライアントの意図は、たとえば今まではビジネスマンが使うものとして主流だったある製品を、アプローチを変える事によって主婦や学生にも「この製品を使うとすごくいいんですよ」を提案し、彼らのライフスタイルの一部として浸透させたい、というわけである。

 ざっくばらんに言ってしまうと、今まで狙っていなかったターゲット層までアプローチを広げ、市場規模を拡大したいという訳なのだが、これをウェブだけで達成させようと考えると非常に難しい。

 任天堂が、これまでテレビゲームのターゲットとして考えられていなかった年配層や女性層をターゲットにして、大成功を収めたケースはすでに業界の語り草だが、ウェブを中心とした広告展開を提案していく私たちとしては、どのような戦略を考えていけば良いのだろうか。

 筆者は、その答えはクロスメディアにある、と考えている。

 昨年大きな話題となったウェブキャンペーン「Nike Cosplay」だが、インターネットをあまりやらない筆者の友人数人に、知っているかどうか尋ねてみると、知らないという答えが返ってくる事が多かった。イノベーター理論に沿って言うと、その友人はレイトマジョリティまたはラガードということになる。

 イノベーター理論とは、スタンフォード大学の社会学者エベレット・M・ロジャース教授が提唱したマーケティング理論で、消費者の新商品購入への態度を、動機の強い(興味の強い)順に5つに分類したものだ。

 購入の早い順に、イノベーター(2.5%)、アーリーアダプター(13.5%)、アーリーマジョリティ(34%)、レイトマジョリティ(34%)、ラガード(16%)と呼ばれ、一般的にはアーリーアダプターまでとそれ以降の間には「キャズム」と呼ばれる容易には超えがたい溝が存在するとされている。

 ウェブプロモーションを仕掛ける私たちにとって大きな問題となるのがこの「キャズム」で、ウェブのみの広告展開ではキャズムを超えて、合計68%を占めるマジョリティ層に認知される事は極めて難しい。先述した筆者の友人たちのような消費者までは決してメッセージが届かないのだ。

 そこで、クロスメディア、である。

 ネット発でありながら、キャズムを超えて認知を広げた典型例として「電車男」は誰もが知るところだろう。はじめは2ちゃんねるからブログなどウェブの中のみでひろがっていたものが、テレビのニュースに取り上げられ、本になり、映画になり、ドラマになり、ついには社会現象にまでなった。

 「電車男」はクロスメディア戦略を考える上で1つのモデルケースになってくれたように思う。

 新たな市場を作り出していきたい、新たな風潮を生み出していきたい、新しいライフスタイルを提唱したい。このような課題があるケースでは、電車男の辿ったような“メディアの道”を、それが伝播する時間をふまえてインターネット、PR、既存の4マス、OOH(Out Of Home広告)そしてイベントを複合的かつ効果的に設計する必要がある。

 ただし、これを実現するには仕掛ける側のチーム全員が“クリエイティブに”発想する態度を持つ事が重要ではないだろうか。

 メディアからメディアへと情報が広がっていくためには、そのクリエイティブが人から人への伝播力を持つ“本物”であることが絶対条件だが、「どのように伝える?」の部分のみならず、「誰に」「いつ」「どこで」の部分でも受け手側にインパクト=話題性を与えるようなオリジナリティが必要となるからだ。ビルの壁や駅の階段を媒体にしてしまった事例があるが、まさにその良い例と言っていいだろう。

 クリエイティブとは通常、伝達過程の最後の落とし込みをする人、またはそのものと認識されているかもしれない。しかしこれからは、営業、マーケティング、メディア、そしてクリエイティブなど、プロジェクトチーム全員が職種を超えて“クリエイティブな視点”になる、そんな仕組みが今後さらに広告代理店に求められてくるのではないだろうか。

江村雄一(セプテーニ)

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