人気ロールプレイングゲーム(RPG)であるドラゴンクエストシリーズの最新作「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」(ドラクエ9)が好調な売れ行きだ。発売日の7月11日から2カ月弱で370万本以上のセールスを記録し、現在も売れ続けている。
1986年の初代ドラゴンクエストの発売から20年以上、家庭用ゲーム機の機能向上にあわせて進化を続けてきたドラゴンクエストシリーズは、ドラクエ9でナンバリングタイトル(※編集部注:1、2のように数字がつくタイトル)としては初めてニンテンドーDS向けとなり、対応ハードウェアのスペックを下げるという選択に出た。
作品のコンセプトや4年半にわたる開発の苦労秘話を、ディレクターを務めたスクウェア・エニックスの藤澤仁氏が語った。
藤澤氏によると、ドラクエ9の開発において最初に決まったことは「ニンテンドーDSで、複数のプレーヤーによるマルチプレイができる」という点であったという。ゲームデザイナーの堀井氏らとお酒を飲みながら議論しているうちに決まったといい、「ドラゴンクエストシリーズは大作なので、プロジェクトを始めるには説得力のある言葉が1つないと動きにくいが、これは大きな夢として開発陣の意欲をかき立てる一言だった」と藤澤氏は話す。
その後、開発コンセプトとして「ずっと遊べる」「みんなで遊べる」という2つのキーワードが決まった。それまでのドラゴンクエストシリーズは、50時間程度プレイして、最後の敵を倒したらクリアとなった。また、他人とコミュニケーションすることなく、1人でプレイするというスタイルが主流だった。これをドラクエ9では大きく変えた。
「ファンが多く、変化を慎重にしないといけないソフトだから、容易な道のりではなかった」と藤澤氏は苦労を語る。
まず、「ずっと遊べる」というコンセプトの下、エンディング後も遊べるようなゲームデザインにした。具体的には、エンディング後の世界を描いた。これはナンバリングタイトルとしては初めての試みだ。
さらに、キャラクターが使える移動手段がエンディング後に増えるようにした。「今から新しいことが始まるというのを強調した」
また、クリア後もプレーヤーのモチベーションを維持するよう心がけた。キャラクターがほぼ無制限に強くなるようにし、それに伴って敵も強くなるような仕掛けを「宝の地図」で盛り込んだ。また、無線LANを使ったショッピングシステムや、プレーヤー間ですれちがい通信ができるようにして、「一度離れてもまた遊ぶ気になる、毎日電源を入れたくなる仕組みを盛り込んだ」
ほかにも、新たな物語(クエスト)や新キャラクターを無線LANを使って配信することで、時間と共に新要素を増やし、プレーヤーを飽きさせないようにした。
「みんなで遊べる」というコンセプトについては、まず、「マルチプレイできるドラゴンクエストIIIみたいなゲーム」というのが、ゲームデザイナーの堀井雄二氏の考えだった。
さらに、マルチプレイをしない人でも「みんなで遊んでいる」という感覚を持てるように気を配ったという。すれちがい通信を通じて、ほかのプレーヤーがクリアした宝の地図を取得できるようにしたほか、クエストや「錬金」という複数のアイテムを掛け合わせて新たなアイテムを作る仕掛けの中に、わざと難しいものを盛り込んだという。「今の時代、ネットで調べるのも攻略法の1つ。人に聞いたり、ネットで調べたりしないと攻略できないものをあえて入れている。『みんなでやったほうが楽だし、早いし、面白い』というゲームデザインを目指した」
プレーヤーが他人に話したくなる、という点にもこだわった。「キャラクターの見た目だけでなく、強さや遊び方まで人と違う、データを差別化できるゲームデザインにした。特にゲームクリア後は、これをやれというのを明確に示されていないため、遊び方も他人と差別化される。嗜好性の違いが見えることで、他人に話したりブログに書いたりすることが促進される」と藤澤氏は狙いを語った。
これらの取り組みはすべて、「スタートダッシュ型ゲームから、ロングラン型ゲームへの質的変換の試み」と藤澤氏は話す。これまでのドラゴンクエストシリーズは発売開始から1カ月で全販売本数の90%以上が売れてしまうという傾向にあったという。これを、1年以上にわたって売れ続けるゲームに変えるというのが、ドラクエ9で目指したことだ。
「発売から2カ月経っていないので、まだ答えは出ていないが、中古への出回り本数が少ない、発売後の売り上げ低下率が低いという傾向をみると、効果は出ているのではないか」と手ごたえを感じているようだ。
それでも、「解決が難しかった問題がある」と藤澤氏は言う。それは、新しいプレイスタイルを今までのドラゴンクエストファンに理解してもらうことだ。「1年かけて遊ぶというプレイスタイルは今までのファンほどなじみにくい」(藤澤氏)。実際、Amazon.comなどのユーザー評価では、辛らつなコメントも多く書き込まれていた。
ただ、藤澤氏は「ドラクエ9はプレイステーション以降の作品として、大きな挑戦作という位置づけになった。やってよかった挑戦だと総括している。当初は非常に難しいと思えた開発コンセプトだったが、『それはドラゴンクエストでは無理だよ』とあきらめず、課題を1つずつ解決したことで、ドラゴンクエストシリーズに新たな将来の可能性を加えられたのではないか」と自信を見せていた。
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