野村総合研究所は9月8日、報道陣向けにセミナーを開催し、RFIDの現状と普及に向けた課題について紹介した。
RFIDとは微小なICチップに製品の個別情報を格納し、無線を利用して情報の読み取りや更新などを行う無線認証システムのこと。政府のe-Japan重点計画-2003 において、「IT利活用のための先導的取り組み7分野」の1つに食品のトレーサビリティ(追跡)が取り上げられたことなどから、流通分野を中心にRFIDに対する注目が高まっている。日本自動認識システム協会の調査によると、RFIDのタグやリーダー/ライター、システム開発なども含めたRFID関連の国内市場規模は、2002年度が156億円、2003年度は前年度比72%増の269億円になると予想されている。
野村総合研究所コンサルティング部門 情報・通信コンサルティング部上級コンサルタントの渡辺秀介氏 | |
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野村総合研究所 コンサルティング部門 情報・通信コンサルティング部上級コンサルタントの渡辺秀介氏によると、現在RFIDが利用されているのは主に倉庫や工場、店舗など限られた場所の中だけで、利用されているアプリケーションも工程管理や在庫・物流管理にとどまるという。しかし2006年から2007年には、業界内の複数の企業にまたがってRFIDが利用されるようになり、将来的にはバーコードの代替品として利用されるようになるという。
そこで問題になるのが、RFIDを商品に付与するコストを誰が負担するかという点だ。渡辺氏は運用面から考えて、「商品の製造時にRFIDタグを一緒に付けるか、もしくはサプライチェーンの中で最初にRFIDを利用する企業がタグを付けることになるだろう」と話す。その際の費用を誰がどのようにして負担するのか、業界や国の制度も含めて整備する必要があると渡辺氏は指摘した。
一度に全てのタグが読み取れるとは限らない
RFIDを利用した場合、バーコードと異なり、多くのタグの情報を一括して読み取れるため、物流や業務が効率化できると期待されている。しかし野村総合研究所 情報技術調査室 研究員の藤吉英二氏によると、RFIDタグの読み取り精度は環境に大きく依存するという。例えばアルミなどの金属部品や水分の含まれるものの近くにRFIDタグが張られていると読み取り精度が落ちるのだそうだ。
実際、野村総研が衣服やジュースの缶、CDなどにRFIDタグを付けて読み取り実験を行ったところ、タグの向きによっては全く読み取れないケースがあったという。また、タグ同士の間隔が狭いと読み取りが難しいといい、CDを10枚並べた実験では、1〜2枚しか読み取ることができなかったという。
この点について上級コンサルタントの渡辺氏は、運用面による解決方法を考えておく必要があると指摘する。一括読み取り操作をして読み取りエラーが起きた場合にどうフォローを行うかといった点を事前に決めておくことが重要だとした。
プライバシーの問題をどうするか
RFIDの普及に向け、もっとも大きな問題となるのは、消費者にRFIDが受け入れられるかという点だ。RFIDタグが商品に付けられることで、自分の購入した商品を第3者に追跡されるのではないかという不安感が消費者にあると渡辺氏は指摘する。
実際に、米国では消費者団体によるRFIDの反対運動が起きているという。例えばC.A.S.P.I.A.N.(Consumers Against Supermarket Privacy Invasion and Numbering)という消費者団体はRFIDのついた商品にはパッケージやラベルにその旨を記載することを義務づけるよう要求している。渡辺氏は「日本の企業であっても彼らが何を問題にしているかを意識しておくべき」と指摘し、今後日本でも同じような問題が起こった際の参考にするべきだと訴えた。
一方藤吉氏は、ベンダー主体の実験だけではなく、エンドユーザーの視点を取り入れた実験が必要だと訴える。実際に利用されるような環境で実験を行い、実績を積み重ねることで、消費者が抱える不安感を払拭しなくてはならないとした。渡辺氏も「一般生活者も参画した形で実証実験を行い、RFIDタグのメリットを一般の人に理解してもらうことが重要だ」と訴え、中長期的な取り組みが必要になると語った。
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