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Winnyの不正コピーでTVCMが成り立たなくなる理由

2003/06/19 10:00
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 Winnyのような匿名性の高いファイル交換ソフトの出現は、映画やゲームなどのコンテンツの流通を根こそぎ変えるほどの出来事だ。コンテンツ事業者がWinnyを活用しようと思えば無限の可能性があるが、不正コピーを防止し、確実に課金できるセキュリティ技術がない以上、販促やマーケティングに利用することはできても、コンテンツ本体の流通に使うのは現状では難しい。

 一方、Winnyに限らず、多くのファイル交換ソフトを使い、コンテンツの違法コピーを流通させる行為が横行している。しかも、Winnyが出てきて匿名性が高まり、ファイル交換の足取りがつかめなくなってしまうことは、違法コピーの流通を完全犯罪化できることにつながる。もともとコピーを販売することで利益を得ているコンテンツ事業者にとって、不正コピーが広く流通してしまうのは深刻な問題だ。

 ユーザーの意識改革を促す努力は続けるとしても、一方では、もう始まってしまったファイル交換ネットワークを前提として検討を始めるべきだろう。ここでは、コンテンツ事業者の視点から、増えつつある違法コピーの流通がどのような状況を生み出しているのか検討してみたい。

地域で区切ることの無意味化

 映画業界では、作品の上映権やパッケージ販売の権利を、国や地域ごとに切り売りする方法が基本になっている。その結果、例えば米国で封切った映画を、2カ月後に日本で封切るなど、地域ごとに上映時期やDVDの発売時期がズレることはよくある。Winny以降、この時間差が映画会社にもたらす不利益は大きくなっている。

 Winnyの世界では、例えば米国で先行発売された英語版のDVDをすぐにリッピング(DVDの中味のデータをパソコンに取り込むこと)し、ご丁寧にも自前で翻訳した日本語字幕まで付け、勝手に“日本語版”を作って流通させている例がある。こうなってくると、正式な日本語版が発売される前に、かなりの人数がすでに鑑賞を終えているという状況も起こり得る。本当のファンはそれでもオリジナルを買うだろう。しかし、「一度見れば十分」程度のレンタル需要は、違法コピーが大部分を満たしてしまう可能性がある。

メディアを包括する巨大メディア

 Winnyは、たくさんの川が流れ込む海のような存在だ。あらゆるメディアからコンテンツが入ってくる。音楽CD、DVD、ビデオ、テレビ番組の録画やラジオ番組の録音。それに、マンガの単行本を1ページずつ丁寧にスキャンしたデータまである。それらが、1つのプラットフォームの中で同一に扱われていることはWinnyの重要な特徴だ。例えば、アイドルAという名前を検索すると、その人の音楽CDや写真集から、出演したテレビやラジオに至るまで、メディアの種類を問わず横断的に検索し、結果を一覧でき、鑑賞が可能になる。そのようなメディアは、これまで地球上には存在しなかった。Winnyが全メディアを包括する巨大なメディアに育つ可能性は十分にある。

 ただ、DVDや書籍のようなパッケージ製品は別として、ラジオやテレビのような放送コンテンツの場合、放送し終えた時点で寿命を終えた、という見方があるかもしれない。放送の一次目的はコマーシャル・フィルム(CF)による広告収入であり、それは放送時に回収済みだからだ。

 でも、それはやや短視的な意見ではないだろうか。その理由を次に述べる。

失われるテレビ広告の同時性的価値

 現状を見ると、早ければテレビ放送が終了した数時間後には、その番組がWinny上で入手可能になる。つまり、時系列順に放送されたはずの番組が、端からアーカイブ化され、Winny上でオンデマンド化されているわけだ。ユーザーはビデオ録画する手間も要らず、過去の番組が見られる。

 いつでも見られると分かっているのに、ユーザーは放送時間に合わせてテレビの前に座るだろうか。ニュースやスポーツ中継など、同時性がなければ意味がないコンテンツは別として、ドラマやバラエティ番組に関しては、今後、恐らくライブで見る人の数は減ってくるだろう。これは、Winnyだけでなく、ハードディスク録画によるホームサーバーの普及などについても同じことが言える。

 そうなると、テレビ広告の価値観は変わる。例えば、ある量販店がテレビ番組に「今週だけの安売りキャンペーン」というような広告を出しても、視聴者によっては、それが見られるのは週末かもしれないし、1カ月後かもしれない。そのような広告は、出しても無駄になる可能性がある。また、Winnyに流れる場合、CM部分はカットされていることも多い。そうなると、Winny経由で番組を見ている人には広告が届かないということになり、テレビというメディアの広告価値が下がってしまう。

半永久的にネットを漂うコンテンツ

 一方、一度Winnyのような世界にデータを放流すると、不特定多数のユーザーのコンピュータに徐々にキャッシュされて広がるため、ファイルを消したり回収したりすることは極めて難しい。結果、半永久的にネット上を漂うことになる。

 世の中には「限られた期間だけ公開したいコンテンツ」というものがある。例えば、テレビのコマーシャルフィルム(CF)がそれだ。タレントを起用したCFの場合、そのタレントが出演する期間が契約で限定されており、その期間が過ぎたら、CFの放映だけでなく、パンフレットや店頭ポスターなど、すべての露出を差し止めなければならない。だからこそ、同じタレントが様々な企業の広告に出演できるし、十分な間隔を置けば、競合他社のCFに出演することも可能になる。ところが、そのような広告映像がWinnyに流れると、その映像はいつまでも視聴者の目にさらされることになる。もちろん、Winnyに流すこと自体が違法なのだから、クライアントや代理店にはどうしようもないかもしれない。しかし、流されたタレント本人としては、商売上、不利益をこうむるケースもあるに違いない。

セキュリティ技術に期待

 視聴時に必ず課金でき、不正コピーできないようなセキュリティ技術が確立されれば、コンテンツ事業者にとってWinnyは画期的な武器になる。

 それでも、町で同じコンテンツのDVDを売っていれば、そこからリッピングして違法コピーを作ることはできる。また、最終的に映像をパソコンの画面上で見られる以上、映像の再生中に画面キャプチャーを高速で連続撮影できれば、理論的には複製は作れることになる(ただし、画面をキャプチャーできなくしているプレーヤーは多い)。

 結局、技術的に完全に不正コピーを防ぐことは難しい。本音を言えば、随分と難しい時代になってしまったと思う。このような時代に、私たちがコンテンツによる収益を最大化するためには、基礎的なところから再度考え直す必要があると思う。ユーザーに「買った方が得だよ」と言わせるためには、まずコンテンツの価格体系と支払い方法を見直す。同時に、買ってもらったユーザーへのケアと付加価値を高める。これしかないのではないかと思っている。

平沢 真一 コンテンツプロデューサー
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