マイクロソフトは4月6日、多くの電子書籍や学習教材に採用されているバリアフリー指向のファイルフォーマット「DAISY」(デイジー)に対応したWord用アドインソフトウェア「DAISY Translator日本語版」を公開した。対応OSはWindows XP、Vista、7。動作にはWord XP、2003、2007が必要。
音声入りDAISY図書の作成には別途音声合成エンジンが必要となるほか、DAISY図書の閲覧にもDAISYコンソーシアムが配布する「AMIS」などのDAISY再生ソフトを用意する必要がある。
DAISYフォーマットは、スイスに本部を置く非営利団体DAISYコンソーシアムが策定し、無償で提供しているXMLベースの電子書籍仕様。読み進めやすいナビゲーションシステムを持つほか、文章を音声で読み上げる機能や、読み上げている個所をハイライト表示する機能に対応。視覚障がい者や読字障がい者の利用で特に有用といわれる。欧米諸国で多くの採用実績を持ち、国際規格ANSI/NISO Z39.86-2005としても認定されている。
DAISY図書を作成する場合、これまではXHTMLの知識が要求されたが、Wordのアドインソフトとして提供されるDAISY Translator日本語版により、かんたんなものは変換作業だけで完了するようになった。
マイクロソフト最高技術責任者の加治佐俊一氏は、2007 Office SystemでOpen XMLを採用したことによるOffice文書の相互運用性向上をアピール。そのうえで、「電子書籍においてアクセシビリティは大切。マイクロソフトもWindowsを中心に他製品と連携を取りながら対応を進めている」として、DAISYフォーマット普及に協力する姿勢を明らかにした。
DAISYコンソーシアム会長の河村宏氏は、「従来の書籍には“忘れられた潜在的な読者層”が存在した。現在の電子書籍の議論では忘れられてはいないか、世に注意を喚起したい」と述べ、全盲や弱視、ディスレクシア(読字障がい)などの障がいを負う人々への理解と、電子書籍が果たしうる役割について説明した。また、「近年の経済難により外国人の子弟が普通学校へ進む例が増えているが、電子書籍が役に立つ場面もあるのではないか」として、障がい者以外の層におけるDAISYフォーマットの可能性についても言及した。
財団法人日本障害者リハビリテーション協会 情報センター長の野村美佐子氏は、協会が4月1日に著作権法第37条第3項に基づく視覚障害者等のための複製また自動公衆送信が認められる施設に認定され、著作権者の許諾なしに著作物の複製/配布が可能になったことを明らかにした。今回のアドインソフト提供開始については「DAISY Translator日本語版公開のインパクトは相当大きい。これまで教師の手でDAISY図書を作成することは困難だったが、これを機に活用の場が広がるのではないか」と期待を示した。
河村氏は質疑応答のなかで、DAISYフォーマットの今後についても言及。DAISYコンソーシアムのメンバーがIDPF(EPUB仕様策定団体)の会長を務め、EPUBのNCXファイルはDAISYフォーマットのNCXファイルそのものを採用したことがあるなどの事例を引きつつ、EPUBとDAISYが関係の深いフォーマットであり、それぞれの次期バージョン「DAISY4」と「EPUB3」についても、連携して改訂作業を進めると述べた。
現在合意を得ているDAISY4の新機能として、聴覚障がい者などのために動画をサポートする方針を明らかにした。日本語など各国語対応も進めるという。また、IDPFは別組織でありDAISYコンソーシアム単独の見解と断ったうえで、EPUB3でも各国語対応やアクセシビリティ向上が課題とされていることを説明した。
EPUBの日本語対応を進める日本電子出版協会(JEPA)が、縦書きや禁則処理、ルビのサポートなどを盛り込んだ日本語要求仕様案を1日に公開したことについては、DAISY4とともにEPUB3で実装される予定と述べた。今後は中国や韓国と連携し、IDPFとともにEPUBの日本語対応に取り組むという。
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