デジタル・コンテンツ利用促進協議会は3月12日、都内で臨時総会およびシンポジウムを開催した。同協議会は1月、インターネット上におけるデジタルコンテンツの流通促進を目的とした政策提言案を公表しており、シンポジウムではその概要を改めて紹介するとともに、パネラーとして壇上にあがった識者らに意見を求めた。
試案の柱の1つである「権利の集中化」は、1つのコンテンツに複数の権利者が絡むことの多い放送番組などについて、特定の事業者(法定事業者)に権利を集中させることで処理作業やコストを軽減化しようというもの。少数の反対や権利者が不明なことによって権利処理が止まってしまうことを避けるため、一定数の権利者の意思表示があれば権利処理できるようにし、権利を得た法定事業者はネット上で自ら、もしくは第三者に許諾してコンテンツを利用できるようにする。
協議会副会長でもあるスクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏は、一般的に映像や音声などの権利が集中しているゲーム業界を例にとり、「権利が集中しているからこそ、マルチメディア展開なども簡単にできる」と説明。オンラインゲームにおけるアイテム販売やステータス販売などのビジネスも、「デザイン、音源、プログラムそれぞれに別々の権利者がいたら展開できない」と、権利を集中させるメリットを自社の経験を踏まえて解説した。
日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏は、権利の集中化を含む一連の試案内容について、「強制収用的な感は否めない」としつつ、「現状からの“モアベター”を目指すという観点において、コンテンツの流通活性化を図ること自体を否定することはない」と話し、方向性には賛同の意を示した。一方、ユーザー数の伸び悩みが伝えられる放送局ベースの動画配信サービスを例にとり、「(ネット配信が)本当に儲かる事業であれば、こぞって参入しているはずだ」と指摘。国を巻き込んだスキーム作りや、市場形成に向けた実験が重要になるとの見方を示した。
慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授の金正勲氏は、 協議会が目指す方向性や目的については賛同しつつも、その方法論については「政策は強制的に実施するのではなく、集合的なアクションを促す形が理想」との持論を展開。特に放送事業者などがネットに対して積極的な動きを見せない状況を打破するための方策として、「 “映像版JASRAC”を立ち上げて独占的なインセンティブをあえて持たせ、事業を健全に回転させていく必要があるのではないか」とした。
こうした意見を受け、東京大学名誉教授で、デジタル・コンテンツ利用促進協議会会長を務め、試案作成に中心的な役割を果たした中山信弘氏は、「放送に関するインターネットビジネスがうまく回転しない理由の1つに著作権がある。また、放送局は従来、こうした活動に力を入れなくても十分に稼げたが、現状、広告収入は右肩下がりであり、いずれはネット配信を真剣に考えなければならなくなる。著作権法を変えればすべてがうまくいくというわけではないだろうが、足枷を外すことに意味はあるはず」と意義を強調した。
権利を集中させた場合には、その権利を持つ事業者が誰であるかを、利用者にわかりやすく公開する「権利情報の明確化」が求められる。その根幹となるデータベースの構築について、JASRACの菅原氏は「情報だけではお金にならない」と指摘。先日、JASRACなどが立ち上げた著作権情報集中処理機構(CDC)のような、実務を担当する非営利団体が必要だと述べた。また、場合によっては国の援助を求めていくことも考えるべきとした。
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