オンラインゲームとコミュニティサービスのカンファレンス「OGC 2008」が3月14日、東京・千代田区のベルサール神田で開催。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表の新清士氏が「オンラインゲームとニコニコ動画の間」と題した講演を行い、近年のエンターテイメント市場における生産消費活動について語った。
まず新氏は、「3〜4年前にはニコニコ動画のようなサイトが登場することは予想もつかなかったし、10年後に残っているかも分からない。今日のイノベーションは正確に読み切れるものではないので、マクロな視点でとらえたい」とした。同氏はエリック・フォン・ヒッペル著「民主化するイノベーションの時代」を例に挙げながら、ゲーム市場に生産消費者(プロシューマー)の時代が来ていると話す。
たとえば2007年に発売されたXbox 360の人気レースゲーム「Forza Motorsport 2」において、ユーザーがデザインした車が大きな話題となった。もとは日本の動画コミュニケーションサイト「ニコニコ動画」で火がつき、それがYouTubeに転載され、米国メディアに取り上げられるに至ったという。海外のゲーム市場においてはYouTubeがユーザーコミュニティの役割を果たしていたが、日本ではそうした盛り上がりはみられていなかった。新氏は「ニコニコ動画の登場により、それが一変した」と語った。
またニコニコ動画では、既存のゲームをモデファイ(修正・変更)するMODカルチャーも盛り上がっており、とくにリリース後に開発環境がインターネットを通じて公開されたリアルタイム戦略ゲーム「HOMEWORLD 2」においては、ユーザーが生み出した高いクオリティのMODゲームが話題になっている。無料のツールやリソースが増加し、「高度な生産、流通手段がユーザーにまで降りてきた」結果、ユーザー自身が生産者になることで、コンテンツを補充しているというのだ。
ニコニコ動画に投稿された動画は無料で見られるため、経済的な価値を図るのは難しい。新氏は「その動画が見られたことによって発生した経済価値は、現在のGDPに換算されていない」とし、「ユーザーが生産者になることで社会的な富が増大したのは間違いないが、そのことの意味は、現在の経済指標では計ることができない」と問題を投げかける。つまり、ユーザーが生産手段を増やしていったとしても、それによってもたらされる経済効果を正確に計る統計方法が存在しないのだ。
新氏は「ニコニコ動画、YouTube、オンラインゲームは、どれも課金体制は違うが、共通点がある」と語った。それは、ユーザーが自由に開発できる環境を提供し、作ったものが流通するコストを限りなく下げ、作品に対するフィードバックを得られるようにしたこと。これは普遍的なパターンになりつつあるという。
さらに同氏は「例えばニコニコ動画においては、ユーザーが生み出すムービーやMODゲームも常に新しいものに変化しており、イノベーションを引き起こしているが、彼らの目的はお金ではなく楽しみを得るためだ。企業は社内の技術を第一に考えるが、ユーザーは自分の欲しいものを求める」とし、そこにイノベーションの種があると語る。またこの点において、「ユーザーの中でブームになっているものから商品にしていく」というニコニコ動画のビジネスモデルは秀逸なものであるとした。
広範囲の技術革新により、テキストや音楽、映像などのコンテンツが、限りなく無料に近い形でエンターテイメントとして享受できるようになった。iPodで大量の音楽データを持ち歩くことは当たり前となり、「100本の映画が詰めあわされたiPodも、5〜6年の間には登場するだろう」と新氏は予測する。
さらに「Second Lifeのようなサーバが個人で作れるようになるのに、そう時間はかからないだろう」とし、「ユーザーにコンテンツを作らせるため、ゲーム会社やサービスを提供する会社はよりプラットフォーム提供側になっていかざるをえないだろう」とした。
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