「Second Lifeは新しくない。Twitterやニコニコ動画の方が100年に1回くらいの新しいことをやっている」--。掲示板やブログ、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などの調査を行っている日本技芸リサーチャーの濱野智史氏は、有限責任中間法人ブロードバンド推進協議会が主催したシンポジウム「仮想世界におけるコミュニティサービスの現在」の中でこう語った。
濱野氏が語るTwitterやニコニコ動画の新しさとは「時間軸」についてのとらえ方なのだという。
メディアやサービスは、電話やテレビ、ラジオなど、リアルタイムで情報のやりとりをする「同期(synchronous)」をとるものと、手紙や書籍、雑誌といった紙媒体など、読み手と受けてに時間差のある「非同期(asynchronous)」なものの2種類があると濱野氏は説明する。その上でインターネットについてブログやSNSのような非同期なメディアとインスタントメッセンジャーやチャット、オンラインゲームのような同期を必要とするサービスがあると説明した。
その同期、非同期という考え方に当てはめるとSecond Lifeはあくまで同期をもったサービスであるが、Twitterやニコニコ動画は単純に同期、非同期という時間の考え方に当てはまらない、新しい時間性を持っているというのだ。
Twitterは最大でも半角140文字と短いテキストしか入力できないこと、ユーザー間にSNS的なつながりを持たせることから「第三者から見れば非同期的だが、当事者から見れば同期的な『選択同期』」と説明する。
たとえばTwitterの友人申請機能である「follow」を行っているユーザーが数人居たとする。その中の1人が「今日カレーを食べた」と書き込みした場合、それを見たほかのユーザーは「私もカレーを食べた」と書き込み、さらにそれを見たほかのユーザーが「2人の話を聞いているとカレーを食べたくなった」とコメントする。このコメントのやりとりは客観的に見れば書き込みに時間差があり、非同期のコミュニケーションだが、その3人のユーザーの中では連続した「同期」のコミュニケーションが行われている。という具合だ。
また、ニコニコ動画については、数多くのユーザーが同じタイミングで同じコメントを投稿することで、画面上をコメントが埋め尽くす「弾幕」と呼ばれる事象を紹介した。あたかも数多くのユーザーが同時に同じ動画を見ながら応援やつっこみを入れているような感覚になる弾幕だが、そう言った臨場感や同期性はあくまで錯覚であると語る。
濱野氏はニコニコ動画の時間性について「疑似同期」という言葉で説明する。動画の同じタイミングで表示されるコメントの1つ1つは、それぞれ現実の時間の流れの中では別の時間に投稿されたものだ。しかし、動画を視聴するユーザーから見ればあたかも数多くのユーザーが同時に動画を見ているような感覚になるということだ。
Twitterの選択同期、ニコニコ動画の疑似同期という考え方を挙げた上で、濱野氏は「客観には非同期であるが、ユーザーの観点では同期している」と両サービスの共通点を説明した。
Twitterやニコニコ動画のように新しいものではない、と語られたSecond Lifeだが、濱野氏はこのサービスをどう考えているのだろうか。
同氏はまず、メディアでの過剰な取り上げ方や、Second Life内で大都市の再現や大規模イベントを行うといったプロジェクトについて「報道の過激さの割に閑散としているのが実情」と語る。
そもそもSecond Lifeでは、仕様上1つのサーバ(SIM)に最大でも数十人しかログインすることができない。そのため、大都市を再現したところで閑散とするのは当然だという。「Second Lifeのアーキテクチャ上の特性をまったく理解していない愚行」(濱野氏)。そして、Second Lifeの特性を生かすためには「すでに利用されているが、シークレットパーティーのような(少数限定イベントなどの)方向性こそ相性がいい」と語り、サービスの機能とコンテンツの相性の重要性を説いた。
Second Lifeもニコニコ動画も2007年初から注目を集めていたたサービスだが、現状はニコニコ動画が盛況している一方、Second Lifeについては閑散としているという印象をぬぐえない。この理由について、Second Lifeが同期性を強く求めるサービスであるが故、その場限りの臨場感しか体験できないを招き寄せるシステムなのに対し、ニコニコ動画が視聴するタイミングがずれていても臨場感が再現できるシステムであると説明。前者を「後の祭り」を招き寄せるシステム、後者を「いつでも祭り中」を可能にするシステムと例えた。
同期性を求められるSecond Lifeなどの仮想世界サービスだが、その成功の鍵はどこにあるのだろうか。濱野氏は、動画サービスをはじめとして、疑似同期できるサービスを提供することが1つの方法であると可能性を語った。「レースゲームやライド型アトラクション、観光ツアーなど、始まりと終わりがあり、一定速度で流れるサービスであれば疑似同期できる」(濱野氏)。
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