そして壇氏の話は、トラブルの話しへと進んだ。はじめに「インターネットの大原則」として、ホームページやブログで情報を公開する際に認識しておくべき4つの原則を紹介した。1つ目は「インターネットは世界中に公開されている」ということである。ブログは仲のよい友人などに向けて記事を書くことが多いが、インターネットは世界中とつながっている。全世界からアクセスされる可能性があるため、世界中に向けて公表したくないことはブログに書くべきではない。
2つ目は、「インターネットの利用者の中には、変わった人も多くいる」ということだ。世の中に変わった人がいるように、インターネットにも変わった人がいる。その割合は変わらなくても、利用者が多くなるほど人数も増える。中には犯罪まがいのことをする人もいるが、インターネットで情報を公開するということは、このような人も相手にしなければならないという認識が必要だ。
3つ目は、「インターネットに流出した情報は抹消できない」である。すでに個人情報流出などのニュースが数多く報道されており、その危険性も認識されてきているだろう。流出すると困るデータは作らないことが一番であり、どうしても作らなければならないときはデータを暗号化しておきたい。
4つ目は「インターネットにおける犯罪は捜査が困難だ」ということである。インターネットは性善説を前提に発展してきたものなので、トレーサビリティが低い。誰が犯罪を犯したかは、究明しづらいのである。
この原則を踏まえた上で、壇氏は実際に起こったトラブルの実例を紹介した。1件目はSNSの「mixi」でのトラブルだ。これは2006年10月に発生したもので、三洋電機社員の個人用パソコンがPtoPソフト「Share」を介してウイルスに感染し、交際していた女性のヌード写真などが流出した。この社員と女性はともに実名で「mixi」に日記を公開していたが、流出した写真や情報から本人を突き止めた人がいて、コミュニティに流出写真を掲載された。さらに雑誌に記事が掲載されてしまったのだ。
この事件は先ほどの大原則に多く関わる要素が存在する。インターネットに限らず人間は他人のゴシップに敏感で、それを突き止めようとする「変わった人」もたくさん存在するのである。一度流出した情報は消えることなく広がっていき、また公開された本人達も実名でmixiを利用していたため、個人を特定されてしまった。この女性が受けたショックは計り知れず、想像にあまりある。
続いてブログでのトラブル事例を紹介した。「どろっぴー」というハンドルネームでブログを執筆していたブロガーは裁判官であり、裁判官になる前からブログに日々の事柄を掲載していた。しかし、裁判官任官後に上司に対する不平や不満を掲載するようになり、その後ブログは閉鎖された。詳しい経緯は不明だが、世界中に向けて公開されるブログは「私的な空間ではない」という認識が必要だという。
壇氏は、ブログのトラブルに多いものとして、コメントスクラム、名誉毀損、情報漏洩、商標や著作権の侵害を挙げている。コメントスクラムとは、ブログのコメント欄に批判的なコメントが集中し、対処しきれなくなること。私的な領域で多数の書き込みがあるため、直接的なコメントが多くなる傾向がある。対応すると余計に暴走し、放置すると他の閲覧者に不快感を与えてしまう。これは特に日本に多い事例で、日本人は基本的に批判することが好きなのではないかと壇氏は分析しており、その代表的な事例として東芝の「クレーマー事件」を挙げた。
「コメントと名誉毀損の問題は難しい」と壇氏は言う。自分が他人の名誉を毀損するような記事を書いたり、コメントしたりした場合は、自分が名誉を毀損したことになり、刑事罰や損害賠償請求の対象となる。これはわかりやすいが、コメント欄に他人の名誉を毀損するようなコメントがあることを知っていながら抹消しない場合は、一定の場合、自分が第三者の権利を侵害したとされる。
さらに、他人の権利を侵害していないのにコメントを抹消した場合には、自分がコメントをした者に対して表現の自由を侵害したとされてしまう。このような場合には、消さないけど表示しない。つまり「非公開」にすることが最も安全な回避策だという。壇氏の話はプロバイダ責任制限法にまで及んだ。
著作権問題もブログの運営において難しい問題であると壇氏は指摘する。著作権法については日本全体の認識率が低く、「著作権」という権利が存在しないことさえ認知されていないという。著作権とは著作権法に定められる権利の総称で、インターネットで問題になるのは主に公衆送信可能化権と複製権である。また、著作物に該当するかどうかの判断も難しく、反面で海外では権利的に問題のないパロディなどが日本では著作権侵害にあたるという認識も希薄だ。
著作権侵害の実例として、「ファイルローグ事件」と「のまネコ問題」が取り上げられた。前者は結論がまだ出ていないとはいえ、ブログ開設者が著作権侵害の主体となる危険性があり、後者では法律的に問題がないにも関わらず、コミュニティの力によって図形商標の登録出願を取り下げる結果となった。インターネット上で縛られるのは法律だけではないという好例だ。
壇氏は最後にブログの注意点として、文化を理解していない者に対しては激しく攻撃される可能性があること、また最低限の法律や技術知識は必要だということを挙げている。また、企業がブログやSNSを公開する場合には、商売に固執すると魅力が失われること、ビジネスブログは個人名を掲載することが信頼を得るための基本としている。ただし、プロフィールを公開することは常にリスクがともなうことも忘れてはならない。内容においても、自信の不道徳な行為や企業の内部情報を避ける心構えが必要だ。
さらにまとめとして、Web 2.0の歴史は非常に浅く、また新たなコミュニティには新しいリスクがともなうことを認識し、ネットワークを健全に利用して強力なビジネスツールに発展させていくことが、ブログ利用者の責務だとしている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス