ウェブブラウザの開発を手がけるフェンリルは7月14日、タブブラウザ「Sleipnir (スレイプニールまたはスレイプニル)」の後継である「Sleipnir2」のベータ版をリリースした(関連記事)。
SleipnirはInternet ExplorerコンポーネントとGeckoエンジンを切り替えて利用できるタブブラウザで、豊富なプラグインによる機能拡張やユーザーによるカスタマイズができる点が大きな特徴だ。動作が軽快なことからも人気を集め、現在数十万人のアクティブユーザーがいるとされる。インターネット白書2005によると、利用しているブラウザソフトの回答でIE、Netscapeに次いで、3.8%のシェアを獲得している。なお、Sleipnirという名前は北欧神話に出てくる、八本足の馬の姿をした足の速い神獣にちなんでいる。
Sleipnirを開発しているのは、弱冠23歳の柏木泰幸氏だ。同氏は2004年11月にSleipnirのソースコードが保存されたPCを盗まれ、ソースコードをすべて失うという災難に見舞われた。しかし同氏はコードを一から書き直してSleipnirを復活させた。さらに2005年6月には資本金1000万円で「フェンリル株式会社」を設立して代表取締役社長に就任し、後継版の開発に力を注いでいる。
CNET Japanでは柏木氏に、フェンリルを設立した狙いやSleipnir2の開発状況、今後の事業展開などについて話を聞いた。
--まず、フェンリルを設立した動機について聞かせてください。
もともと個人でSleipnirを開発していた頃から、自分の作ったソフトウェアでビジネスをしたいと考えていました。ただ、一度社会に出て働いてみたいということも思っていましたので、大学卒業後は1年間システムエンジニアの仕事に就き、組み込みシステムや携帯電話向けのBREWアプリの開発に携わりました。
仕事自体は楽しかったのですが、どうしても夜が遅くなるため、自分の開発のための時間がなかなか取れませんでした。そこで独立することに決めました。
--Sleipnirの開発中に泥棒が入り、ソースコードをすべて失ったことがありましたね。
ショックで1週間寝込みました(笑)。体重も5キロ減りました。今は複数の場所に分散して保存するようにしています。新しく構えたオフィスもとにかく防犯を意識して、隣に交番がある場所にしました(笑)
--しかし、その後の開発スピードは眼を見張るものがありました。
頭のなかのコードまでは盗まれていませんでしたから。ただ、コード量が多いので時間はかかっていますが。
実はこの盗難事件は、フェンリルを設立するひとつの転機になりました。当時はまだ自分で会社を立ち上げるかどうか迷っていた時期でもあったからです。盗難事件の時にお世話になった前の会社に恩返しがしたくて辞めるのをずいぶん迷いましたが、最終的には別の方法で恩を返していこうと決意しました。
それまでSleipnirを開発していたときにもすでに後継版(Sleipnir2)の構想はあったのですが、Sleipnirのバージョンアップ・メンテナンスに時間がかかってしまい、後継版の開発になかなか踏み切れずにいました。Sleipnirのコードがすべてなくなったことで、逆に後継版の開発に本腰を入れる踏ん切りがついたのです。
--Sleipnir2の収益モデルはどのように考えていますか。
Sleipnir2自体はフリーウェアとして、今後も無料で提供していきます。Operaのように広告付きの無料版と有料版の2つを提供するようなアプローチを採るつもりはありません。
収益源の1つは広告です。ただしユーザーがブラウザを使う上で邪魔になるような広告は載せません。実際にはSleipnirのサイトに広告を掲載する形を採ると思います。
2つ目は、検索バーやアドレスバーの枠の販売です。ポータル企業などが提供するツールバーをSleipnir2に標準搭載します。これにより、企業は自社のサービスにユーザーを誘導できます。
その第一弾として、エキサイトと提携します。Sleipnir2を起動すると、エキサイトと共同で提供するサービス「Sleipnir×Excite」のサイトが表示されるようにします。ここではエキサイトの検索や翻訳、辞書などのツールや、エキサイトニュース、天気情報、Sleipnirの最新情報などが利用できるようになります。また、Sleipnirバージョン1.66ではデフォルトの検索バーがInfoseekになっていましたが、今後はエキサイトの検索機能を利用した「Sleipnir Search」にしていきます。
ほかにはソフトウェアのバンドルサービスが考えられます。Sleipnir2のアーカイブと一緒に、提携企業のソフトウェアを配信するというものです。現在のSleipnirのアクティブユーザーは数十万人程度ですが、これが1000万人規模になれば大きな可能性があります。
--ベータ版や正式版ではどのような機能が新たに追加されますか。
自社開発のRSSリーダーを搭載します。また、カスタマイズ機能を更に強化します。たとえば、今のSleipnirではユーザーが使いたい機能を「オン」または「オフ」にして選べるようになっていますが、Sleipnir2ではさらに「機能を追加する」「機能を削除する」こともできるようにしていきます。
それから「SmartUpdate」という機能を導入します。これはプラグインの更新版がリリースされると、自動的にユーザーに通知され、アップデートができるというものです。
--jigブラウザとの連携も発表されました。
Sleipnir2では、jigブラウザとお気に入りが連携できます。アルファ版ではjigブラウザのお気に入りをエクスポートしてSleipnir2で利用できるだけですが、ベータ版ではjigブラウザとお気に入りのデータを同期させて、どちらでも編集ができるようにします。これにより、家でも外出先でも同じお気に入りリストを使ってウェブページが見られるようになります。
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