薄暗い冬の午後、アラスカ州南部にあるCarlos Owensの自宅裏庭では体長約5.5メートルのロボットが姿を現しつつあった。
昼間はアンカレッジ近郊の鉄工所で働く26歳のOwensは、自分の時間を使って、本物の「パワードスーツ」を作り上げたいと考えている。これはロボットとはやや異なり、装着した操縦者の動きに連動して、2メートル強の歩幅で歩いたり、その鉄腕から圧倒的パワーを絞り出すことができるというものだ。
パワードスーツを実現するなど、まるでアニメやSFのように聞こえるかもしれない。しかし、月面着陸にしても50年前は同様の絵空事だった。Owensのこのプロジェクトは順調に完成に向かっており、角状の部品がついた赤い頭部とハサミ式の手が、雪の積もった庭に立つ生みの親の頭上にそびえ立っている。同氏はこれを、来年夏の試験稼働に間に合うよう完成させたいと考えている。地元のサーキットで行うそのテストでは、マシンの性能を披露するために車を数台破壊することになっている。
「パワードスーツというコンセプトは、かなり以前から存在している」とOwensは電話インタビューのなかで語り、「ただし、自分でできる力があるのだから、他人に先を越されたくはない」と付け加えた。
このプロジェクトは機械マニアの夢であり、Homebrew Computer Club(HCC)にみなぎっていたのと同じ「思慮分別などどうでもいい」という意気込みの現れといえる。HCCからは、後にApple Computerやシリコンバレーのマイクロコンピュータ産業が生まれたが、Owensの場合は興味の方向がミクロの世界ではなく、マクロの世界に向かっているという違いだけだ。
同氏は、あふれんばかりの想像の世界からアイデアを得ている。それは長年にわたり大企業や米軍、そして無数のビデオゲーム開発者やハリウッドの映画監督に影響を与えてきたものだ。1950年代後半に出版され、後にアニメにもなった日本の漫画「鉄人28号」は、巨大なロボットの冒険を描いたもので、米国でも「Gigantor」というタイトルでリリースされたことがある。また「機甲創世記モスピーダ」や「機動戦士ガンダム」など、その後に登場した無数の日本製アニメにも巨大ロボットが登場するが、その多くは人間が操縦する設定だった。
パワードスーツというテーマは、米国のSFでも何度も使われている。Robert Heinleinが1959年に書いた小説「Starship Troopers」や、それを原作にした1997年の映画には、着用者の力を大幅に高める強力な戦闘スーツを身に付けた兵士が主人公として登場する。映画「Alien」のなかでSigourney Weaverが演じたキャラクターもOwenがつくるパワードスーツに少し似たものを着用していた。さらに、昨年公開された「Matrix Revolutions」でも同様のものが登場していた。
しかし、現実の世界でこれらのツールを実現しようという努力は、今のところあまり成功していない。1960年代後半には、米海軍とGeneral Electric(GE)が共同でこの種のパワードスーツを開発するプロジェクトを進め、Hardimanのプロトタイプを生み出した。この不格好な鉄枠は、ユーザーの手足に装着して最大約680キロの重さのものを持ち上げることを目指したものだったが、GEのエンジニアは片手を動かすのが精一杯で、同プロジェクトは1970年代前半に中止されてしまった。
Owensは、かつて陸軍で工兵として重機を扱っていた経験の持ち主だが、このプロジェクトをごく当たり前のことのように説明する。その口ぶりは、ちょうど中古車のトランスミッションを新品に交換することについて話しているような穏やかなものだ。父親が空軍士官だった関係で、フィリピンで生まれた同氏は、少年期の数年間を世界各地で過ごした後に、結局アンカレジ郊外に落ち着いた。
同氏は大きなモノをつくるのが好きで、いつも何かを生み出したいと思っていた。19才の時には、約10メートルの高さのパワードスーツを木でつくったが、これは動くモノをつくるための材料が買えなかったからだ。それに対し、陸軍と鉄工所での勤務経験を生かした今回のプロジェクトは、さらに野心的なものだ。
「これまでいつも何かをつくっていたが、今回は他人のやっていないことをしたかった。何か新しいものを生み出すのは難しいことだ」(Owens)
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