給与削減の波にさらされるIT技術者たち

  IT不況の影響で、高度な技術を持つ労働者たちが苦境に立たされている。この問題の深刻さを示すさまざま話が語られる中、経済専門家のJared Bernsteinは、彼らの苦しみを示す統計を発表した。

 BernsteinはEconomic Policy Instituteに所属し、労働省のデータを研究している。Bernsteinの研究によると、専門家と技術者の賃金は実質的に下がっているという。さらに、コンピュータ技術者や数学者の失業率が、1982年に労働統計局が統計を取り始めて以来、過去最高となった。

 コンピュータ技術者や数学者の失業率は、1990年代には1%前後だった。しかし、2002年末には5%程度にまで増加している。これは労働市場全体の失業率に比べて2倍の数値だ。

 賃金面も同様だ。2002年第4四半期における技術者・専門家のインフレ調整前賃金は、前年同期比わずか1.7%増となった。これも労働省が1976年に統計を取り始めて以来最低の数字である。

  Bernsteinはかつて労働省の副チーフエコノミストも務めた人物。CNET News.comはBernsteinに、高度な技術を有する専門家などが直面する課題について聞いた。

---いわゆるニューエコノミー業界で、失業率が上昇し、実質賃金が減少しているというお話ですが。

 2002年第4四半期、IT業界の賃金上昇率は過去最低となりました。2003年の第1四半期には賃金上昇率が前期比1.8%増となりましたが、インフレ上昇率には全く追い付きません。技術を持った多くのホワイトカラー労働者にとって、あまり喜ばしい状況とは言えません。

 政策論議の中で、技術さえあればニューエコノミーの浮き沈みに耐えられると言われて来ました。しかし最近のIT不況から、この考えが怪しいことが判明しています。高度な技術を持つ多くの労働者が現在大変な苦境に立たされているのです。

---原因は何でしょう。

 ITは生産性の向上を加速させるものだいうと期待が集まり、確かに高い費用対効果がありました。各社が過剰投資を行い、大規模なバブル景気が生み出されました。しかし、バブルの崩壊により、IT関連製品や高度な技術をもつ従業員に対する需要も急激に落ち込んだのです。

---ここで言う「専門家と技術者」はどんな職種を指しますか。法律家や会計士も含まれますか。

 含まれると思います。技術者やコンピュータ科学者、医師、教師、科学者なども入ります。

---その中でハイテク関連の労働者の占める割合は。

 少数でしょうね。

---ハイテク関連の労働者を救うために、何をすればいいのでしょう。

 いずれIT需要は回復してきます。彼らに必要なのは職業訓練などではなく、経済を回復させて技術を生かす場をつくることです。余談ですが、ブッシュの政策は役に立ちません。あれは長期的に成長を促進させるための計画ですから。

 失業手当の拡充も必要です。私の予想ではおそらく1年以内にIT需要が回復してきます。大きく活気づくというほどではないでしょうが、ITは米国経済の要です。この市場が回復するまでは、ハイテク関連の労働者に対する支援が必要です。

---海外にIT関連業務をアウトソースする傾向があります。これも失業率の上昇や実質賃金の減少に関係するのでしょうか。

 今回の調査結果の背景にあるのは、主に過剰投資バブルの崩壊です。一方、IT企業が労務費削減を目指している今、海外の安い労働力が非常に魅力的に映るのも事実です。

 確かにIT関連の労働者は、アウトソーシングについて大きな懸念を抱いています。今までIT技術を身につけるべきと言われた人が、今度は電話の向こうにいるずっと給料の安い労働者と競合しているのです。H-1Bビザで外国人労働者を米国に迎え入れるプログラムについても懸念しています。

---長期的に見て、インドや中国などへのアウトソーシングが、米国のIT労働市場に悪影響を与えるのでしょうか。

 米国のIT労働市場が縮小することはないでしょう。たしかに成長は急激に遅くなっています。ただ、国内にIT分野が必要な場合もあります。

---H-1Bプログラムは縮小、もしくは全廃すべきですか。

 IT分野の労働力は供給過多ですから、H-1Bビザで入国した労働者がIT分野へ就労することを抑えるのは大賛成です。しかし、プログラム全廃は行き過ぎでしょう。

---Meta Groupが最近、IT労働者の賃金が平均5%上昇しているという調査結果を出しています。今回の研究結果と矛盾しませんか。

 説明はつきます。確かに業界では賃金が大幅にカットされたという話があります。Meta Groupの調査結果は我々の把握している現状からかけ離れて見えますが、この調査結果は市場回復の前兆を捉えたものかもしれないのです。

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