NECは、演算性能で最大65テラFLOPSの処理能力を持つスーパーコンピュータ「SXシリーズ モデルSX-8」(SX-8)の世界同時発売を発表した。SXシリーズがリリースされてから20年。トータル700台が各機関で活躍中だが、今年はNECにとってもスーパーコンピュータ分野において節目の年といえる。
最大65テラFLOPSを可能にする心臓部。微細な配線を伸ばすと1700kmにも及ぶ |
SX8は省スペース化も進んだ。保守エリアとなる設置面積はSX6の4分の1という |
SX-8の心臓部は、前モデルのSX-6で実現した1チップベクトルCPUをさらに進化させたもの。シングルノードのベクトル性能で128ギガFLOPS、このノードを最大512ノードのマルチノード構成にすることで最大65テラFLOPSの処理能力を持つことになる。この1チップベクトルCPUは90nmの銅配線を採用し、CMOS LSIと最先端のLSI設計技術を用いて構成されている。ベクトルユニットのパイプライン部が2GHzという高周波で動作するCPUは1モジュール上に集約、パッケージングしている。これにより従来の約4分の1への省スペース化、消費電力を2分の1にするという省電力化にも成功している。また、CPUだけでなくデータ転送速度が非常に高いのも特徴だ。メモリ容量を最大64テラバイトと大容量化し、CPUとメモリ間のデータ転送速度は最大で262テラバイト/秒となっている。
これまでNECが保持していた地球シミュレータによる演算処理能力は35.86テラFLOPSで、現在までの最高記録はラボでの記録になるがIBMのブルージーンがマークした36テラFLOPS。SX8は米国に奪われた記録を奪い返した形になる。ブルージーンに一度でもトップの座を明け渡したことについて、NEC 執行役員常務の近藤忠雄氏は「ブルージーンの記録はあくまでも開発室の中で行われた実験にすぎず、結果も当然予想できることでしかない。そうしたベンチマーク的要素ではなく、実用面での処理能力が重要だ」と語る。
NEC執行役員常務 近藤忠雄氏 |
名実共にスカラ型スーパーコンピュータよりも性能面で上位になったベクトル型スーパーコンピュータだが、現在このタイプのコンピュータを製造しているのはNECとクレイだけとなっている。現在の市場占有率は、NECによると6(NEC):4(クレイ)だが、SX-8をリリースしたNECは「この分野におけるシェアを10割にする(近藤氏)」と鼻息も荒い。すでに英国気象庁、シュトゥットガルト・ハイパフォーマンス・コンピューティングへの導入が決まっており、SX8の導入数を今後3年でこれまでのシリーズ売り上げと同等になる700台を各機関へ導入させたいとしている。
現在は比較的安価なスカラ型がスーパーコンピュータの分野では圧倒的だが、研究機関の間ではベクトル型スーパーコンピュータを求める声が依然高いのも事実だ。大量のデータ処理、気候モデリング、複雑なシミュレーションなどを行う場合、クラスタシステムでは通信のオーバーヘッドにより能力が発揮できないという意見が多数を占めている。他方、ベクトル型スーパーコンピュータは高い導入費用がネックとなるが、この点についても「トータル性能のスペック向上により、コストパフォーマンス的にも勝負になる(近藤氏)」と語っている。ちなみに事前資料ではレンタルで月額約117万円からとなっており、出荷開始は12月末を予定している。扱うソフトウェアによっては性能の90%以上を発揮できるといわれているSX-8。ベクトル型スーパーコンピュータの将来を大きく左右する存在となりそうだ。
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