東京大学教授でTRONプロジェクトのリーダーを務める坂村健氏が8日、富士総合研究所主催のイベントValue Forum 2003にて特別講演を行った。坂村氏はその中で、「1990年代はグローバルスタンダードが叫ばれた時代だが、21世紀は現場の状況を重視するローカリティの時代だ」と、一風時代を逆行しているとも取れる意見を述べた。
坂村氏の意図するところはこうだ。「ユビキタス社会に必要なのは、その場その場の状況やニーズにあったサービスを提供すること。何でも世界標準にあわせることが重要ではない。これまでの技術力では、標準にあわせることで開発も楽になりコストも削減できた。しかし今では技術も十分発達し、現状認識のできるコンピューティングの世界が可能となった。われわれも日本のニーズにあったユビキタス社会を作ればいいではないか」(坂村氏)
同氏はまた、米国がグローバルスタンダードに従っていないことも指摘する。ISO(国際標準化機構)がメートル法を標準だとしているにもかかわらず、米国ではまだフィートやインチを使っていることを例に出し、「自国の利便性を最優先するアメリカがうらやましい」と皮肉る場面も。「無線IDの周波数もアメリカは当然のように国際標準に従っておらず、同国が最初に実験した周波数をそのまま使い続けている」と坂村氏。その裏には、標準が決まりつつもまだ多くの国で標準が採用されていない無線IDの周波数について、日本も独自の周波数を採用すべきだとの思いがあるようだ。
東京大学教授、坂村健氏 | |
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日本はこれまでグローバルスタンダードという言葉に惑わされ、米国をモデルにするような風習があったが、「日本人も自立すべきだ」と坂村氏は強く主張する。「シリコンバレーが成功したから日本でも“何とかバレー”と名づけてやっても全く話にならない。アメリカの精神で一番いい部分は、人のやっていないことをすること。しかし日本で“アメリカがいい”という人は、みなアメリカの真似をしようとしている。これはアメリカの精神に反している」と述べ、「日本の中にもすばらしい技術があり、すばらしいマーケットも用意されている。それを活用すべきだ」と、坂村氏が中心となって開発を進めたTRONの採用をさりげなく推奨することも忘れなかった。
坂村氏はTRONを推奨するもうひとつの大きな理由もあげている。それは現在問題となっているSCO GroupのUnix/Linux関連の裁判だ。Unixの知的所有権を持つSCOはIBMを相手に、UnixのコードをLinuxに不正使用したと提訴し、世界の大企業1500社にLinuxを使うことで法的責任が生じる可能性があるとの手紙を送った。この問題をふまえた上で坂村氏は、「オープンソース化が進むこと自体は大賛成で、Linux陣営にもがんばってもらいたいが、いまだに出所をめぐって裁判が起こるようでは安心してビジネスをやっていけない。やはり出所がはっきりしているものを使うほうが安心なのではないか」と語った。
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