2011年7月24日の完全移行まで1年を切った地上デジタル放送。ここではほぼ順調に進む地デジ化の中でも今なお残る課題について考えていく(前編はこちら)。
地上放送をデジタル化する目的のひとつに「情報格差(デジタルデバイド)解消」がある。PC、そして携帯電話の普及によって通信経由の情報発信が爆発的に拡大する一方、それら端末を使いこなせないユーザーには依然、テレビが最大の情報ツール。だからこそ、すべての国民がデジタルテレビを視聴できる環境を整えなければ意味がない。しかし、残り1年をきった土壇場において「デジタル放送化を機にテレビを見ない」と主張する層が存在する。
総務省が2010年5月に公表した「地上デジタルテレビ放送に関する浸透度調査」によれば、2010年3月時点でのデジタル対応テレビ普及率は83.8%。残る16.2%のうち、12.4%までは「停波までに対応する予定がある」としている。NHKによれば、10月末時点でのデジタル放送受信機普及台数は9200万台、10月単月での普及台数も過去最高の351万台を記録していることから、調査後も順調に普及率を伸ばしていることがわかる。
問題は残る3.8%。このうち3.1%までは「対応予定がわからない」という、将来の対応に前向きともとれる回答だ。しかし、その理由トップとして挙げられているのが「経済的に対応する余裕がない」(40.3%)。2番目に「時間的余裕がある」(27.5%)がきている。未対応世帯全体にとった統計とは1位と2位が入れ替わっており、前編で論じた「地上デジタル放送=次世代型テレビ」のイメージ戦略が裏目に出た数字ともとらえられる。
さらに気になるのが「対応予定がない」としている0.6%。理由の内訳は「これを機会にテレビは見ない」(32.6%)、「インターネットがあれば十分」(16.7%)、「携帯電話(ワンセグ)などで見られれば十分」(6.9%)といった具合だ(残りは「その他」「無回答」)。
調査を担当した総務省は「理由の詳細は調べていないが、これらの方々はいわゆる情報弱者ではなく、何らかの形で情報をとれる立場にいる方々ではないかと思う」との見解を示した。なるほど「インターネットがあれば」としている層は確かにそれにあたる。「携帯電話で」としている層もまた、そのとらえ方で理解できるものだ。
しかし「これを機会にテレビは見ない」としている層、この対応には疑問が残る。せめて、この回答者と世帯年収別普及率(前編参照)を照らし合わせたデータを知りたいところだが、そのデータはない。これらの人々が、本当に「テレビを不要」と考えているのか、あるいは心ならずもさまざまな事情から「テレビがなくとも生きていける」と決断せざるを得なかったのか。それを知らずして「デジタル放送完全移行」の意義は果たせまい。
もうひとつ気になるのが、インターネットあるいはワンセグで情報をとると回答している層における「NHK受信料に対する認識」だ。ワンセグは放送法第32条によって規定されている「協会の放送を受信することのできる受信設備」に該当するため、放送受信契約の対象となることをNHK自身が明言している。インターネットはさておき、PC接続型のテレビ、ワンセグチューナーについても同様だ。「テレビがないので受信料は払わない」という説明は通用しないことを、あらかじめ判断材料に入れておいたほうが良いだろう。
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